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 木村榮一 『ラテンアメリカ十大小説(岩波新書、2011年)


 ボルヘス、ガルシア=マルケス、バルガス=リョサなど、スペイン語圏のラテンアメリカで20世紀に次々登場してきた世界的な作家とその作品について、穏やかな語り口で紹介している、ラテンアメリカ小説の入門書。

 ラテンアメリカの現代小説は、民話的世界、独裁政治といった共通する背景をもった数々の名作が20世紀に数多く生み出されてきた。

 そんなラテンアメリカ小説の主な10人を取り上げて、その代表作だけでなく、その作家自身の来歴や主な作品の紹介をしてくれている。

 そんなわけで、読む小説を見つける良い手引きになっている。他の地域・国でもこんな本があればいいなあと思う。 特に、ピンチョン、マッカーシー、デリーロがいる現代のアメリカ。


 この本を読んで一番面白そうに感じたのは、ガルシア=マルケス。 次がボルヘス。 その次が、バルガス=リョサ。 さすがといったところか。

 

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 重松清 『卒業(新潮文庫、2006年)


 父親が自殺していたり、いじめを受けて引きこもっている息子がいたり、母の病死後に父が再婚した新しい母がいたり、と、「普通」の家族とは何かしら異なっている家族が、苦境を前向きに受け入れ「和解」していく様を描いた4つの中篇小説からなる本。

 色々な場面で、「あー確かにそんな気持ちになったなぁ」と思わされるところがたくさんあって、重松清はどれだけ人間心理を見事にすくい取るんだ、と改めて思った。

 と同時に、10代の尖っている時期に読んだらやっぱり好評価は下さなかっただろうなとも、(いつものことだけど)思った。

 その違いは何なのだろう?と読んでいるとき考えた。

 ~ここから下は本の感想ではない~

 もちろん、様々な感情や出来事を経験してきたというのが大きいのは間違いない。だけど、重松清の作品を受け入れられるようになったのは、そういう「共感」といった過去の確認作業とか修繕作業みたいな後ろ向きなものだけによるのではないように思える。

 重松清の小説を読むことで、何か前向きな満足感を得られているように感じる。

 すなわち、大人になった今だからこそ欠けている何か、を埋め合わせて満たしてくれているように感じるのだ。

 じゃあ、様々な経験もして大人になったけど、それでも、「大人になった今だからこそ欠けている何か」とは何か?


 というのを、言葉で表そうといろいろと数日の間に何回も考えたけど、いまいちはっきりとつかみきれない。

 本を読んでいるときは、確かに「あー、与えられているなぁ」という感覚はあったのだけど・・・。

 誤解を恐れず、陳腐なかなり漠然とした言葉でいえば、「愛情」とか「優しさ」とかそういったものだ。

 でも、「小説を読んで愛情を与えられる」というのは、一体どういう状況なのだろうか? 自分でもよくわからなくなってきた。

 から、今回のブログではここまでで終わりにしよう。

 奥田英朗 『純平、考え直せ(光文社、2011年)


 21歳のヤクザ、純平がヒットマンに選ばれ、その実行まで3日間自由な時間を与えられる。その間、様々な人に会い、色々なドタバタ劇が繰り広げられる。

 ヤクザだけど実直で若者らしい主人公とか、年老いてから家族も捨ててグレ始めたマイペースな元大学教授のじいさんとか、良いキャラな登場人物が出てきたり、3日間の話なのに痛快で愉快なことがぎっしり詰まっていたり、いかにも奥田英朗らしい小説。

 だけど、これまでの他の作品と比べると、笑えるところも少ないし、話の展開もそれほど意外性がない。

 また、ネットの掲示板で純平のネタで盛り上がる人たちが出てくるのだけど、使われてる言葉がいちいち一般向けに分かりやすい言葉になっていて、2ちゃんの勢いとか雰囲気が全然出てない。(「スレ」を「スレッド」、「ネトウヨ」を「ネット右翼」とか。)

 そんなわけで、奥田英朗の小説としてはあまり面白くない小説。

 大江健三郎 『美しいアナベル・リイ(新潮文庫、2010年)


 3年前に出版された『臈たしアアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』が改題・文庫化されたもの。


 ポオの詩に登場する純粋無垢な少女アナベル・リイ。 そして、クライストの『ミヒャエル・コールハースの運命』を基にした民衆の純粋無垢な力のたくましさを描く映画。 歳を重ねた2人の男が、もはや取り戻せない純潔さにもう一度接近すべく、アナベル・リイを思わせる美しき国際派女優を主人公に、「ミヒャエル・コールハース映画」を制作しようと計画する。

 しかし、その純潔や憧れの脆さや儚さのままに、その計画は頓挫して( or 外国人によって凌辱されて)しまう。 その後、登場人物たちは、大きな夢を追うのではなく地道に純潔を回復しようと各々が努めていくことへと方向転換していく。


 純潔なものへの憧れと、その儚さ。 その壊れ方のあっ気なさ。 そして、それを壊す粗暴なよそ者。

 派手さはないながらも、とても雰囲気があり、ささやかに(うるさくない程度に)批評性も含んでいる小説。

 川上未映子 『わたくし率 イン 歯ー、または世界(講談社文庫、2010年)


 芥川賞候補になった表題作の中篇と一つの短篇を収めた本。

 表題作は、虫歯になったことのない、体で一番硬い奥歯に自我を見出した女性が、恋をし、未来の自分の子供に宛てた手紙を書く。 しかし、終盤、恋も完全に頭の中での妄想であったことが明かされる。 こうして、強い自我を求めた弱い女性は弱い人間らしい結末を迎える。 そして、そこから一歩踏み出したところで物語は終わる。

 昔であれば生死をかけて悩みぬいたであろう自意識の問題をふざけた感じで小説にするのはいかにも現代的。 ただ、その主題、表現方法、物語の展開と、どこを取っても特に特筆するようなところはない。 特に、前半で情報を与えず、後半になって唐突に 「 実はこうだったんです・・・」 的な暴露で物語を展開させる手法は稚拙。

 一緒に収録されている短篇 「 感じる専門家 採用試験 」 の方は、妊婦、主婦の生活を、滑稽で独創的な言葉や視点で、それにもかかわらずリアリティを持って、紡いでいっていて、なかなかおもしろかった。

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