忍者ブログ
by ST25
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 赤川次郎 『早春物語(角川文庫、2011年)


 子供と大人の間の微妙な年頃である17歳の女の子が、背伸びをして大人の世界に足を踏み入れてしまう。そして、子供らしい浅薄な思慮から出てくる大胆な行動を重ねることで至った結末は、あまりに大きなものだった。


 この小説は、微妙な年頃の少女を描いているけど、その描き方は大味で、繊細な心理描写とか細かい設定とかにはあまり気を払われていない。

 その一方で、赤川次郎らしく、物語の展開に(ちょっとした)奇抜さがあって、ミステリー的な要素はある。とはいえ、あくまでここがこの小説のメインではないから、それほど大それたものではない。

 となると、小説全体では、深みもなくあっさりした、セールスポイントのない作品ということになる。

 

PR

 重松清 『せんせい。(新潮文庫、2011年)


 ちょっとわだかまりがあって表面上、心を開ききれていないような、そんな微妙な関係の教師と生徒との関係を描いた6つの短篇を収録している。

 教師による何気ない言動、あるいは、個性的なやり方に、生徒が意外にも影響を受けていたという内容の話が多め。

 学校の先生と生徒との関係は、実際、「ザ・師弟」みたいなものなんてあまりない。むしろ、先生を全然尊敬していなかったりするけれど、それでもさすがに子供であるだけに、後々考えると何かしら影響(良いもの悪いもの両方あるけど)を受けていたんだなあと思うことがあったりする。

 ただ、この本の話は、そんな関係に近いけれど、やや生徒が(正直、微妙な)先生を尊敬する方向に(やや不思議ながら)傾いている話が多い。

 いずれにしても、そもそも感動話にはなりにくいところを描いているけど、やはり、いまいち感動もしなかったし、共感もできなかった。

 貴志祐介 『新世界より(上)・(中)・(下)(講談社文庫、2011年)


 戦慄。 読書でここまでおもしろさに興奮したのは久しぶり。 おもしろかった。


 1000年後の日本は、放射能の影響を思わせる奇態な生き物たちが蠢く異様な世界に変わっていた。 しかし、そこでは、思い描いたことを実現する「呪力」を持った人々が、知能が発達したバケネズミを奴隷とし、実に平和で穏やかな生活を送っている。
 
 その理由の一つには、人類が人類に対して攻撃すると自らの命が絶たれるという生理的なメカニズムである「 愧死機構(“きし”きこう) 」(作者と同じ名前)を備えていることがある。 また、何やら秘密主義的で管理主義的な教育制度が整備されてもいる。

 そんな世界で、主人公たちを危機が襲う、というSF小説。


 ファンタジー的、ミステリー的な話の展開のおもしろさはもちろんのこと、ほかにも、話の設定が過去から現代までの人類たちの歴史の延長線上にあったり、その進化が皮肉な結果をもたらしたりと、何重にも話のおもしろみがある。

 それこそ、ハックスリー『すばらしい新世界』における近未来の悲劇と、チャペック『山椒魚戦争』における(誰か/何かを支配するという)帝国主義の悲劇とを合わせたような、深みとおもしろみがある。

 難点としては、子供たちが命の危険を冒して規則を破りすぎていたり、危険なところを行くのに呪力を簡単に奪ってしまっていたりという、ご都合主義的な展開がいくつか散見されたところ。

 ただ、そこまで致命的なほどではないし、それを補ってあまりあるほど圧倒的な迫力と勢いが物語全体にみなぎっている。


 この手の壮大な物語を書く日本人作家はあまりいないだけに、感動もひとしおだった。

 重松清 『鉄のライオン――『ブルーベリー』改題(光文社文庫、2011年)


 1980年代前半に学生時代を過ごした1人の男性(筆者とオーバーラップするところが多々ある)が、当時のちょっとした出来事を回想している12篇の短篇からなる小説。

 『ブルーベリー』という単行本で出されていたものが、『鉄のライオン』として文庫化されたもので、確かに、『ブルーベリー』という題だと売れなそうな気がするから、より興味を惹かれる『鉄のライオン』という題に変えたのは理解できる。

 けど、読んでみると、『鉄のライオン』なんていうかっこいいタイトルには似つかわしくなさすぎる内容で、むしろ、『ブルーベリー』っていう生ぬるそうなタイトルがぴったりだというのが分かる。

 そんなわけで、重松清の作品にしては、それぞれの場面・出来事のつっこみも浅くて、ラフスケッチといった感じの、物足りなさが残る小説だった。 ( 著者本人も「素描」だと断ってはいるけれど。)

 宮下奈都 『スコーレNo.4(光文社文庫、2009年)


 1人の平凡な女性の(ささやかながら確かな)成長を描いた小説。

 さほど有名ではない筆者の、人物描写・情景描写の力はなかなかのもの。しっかりとした筆力のある作家だと思う。

 話は、派手な出来事や劇的な展開があるわけではないけれど、1人の女性が様々な日常の出来事から思考し、気づき、学び、そうして、少しずつ本来の背伸びしない自分やそんな自分の居場所を見つけていく。

 例えば、魅かれる男性でいえば、年上の大人、自分とは対照的な性格の同級生、そして、骨董屋の娘である自分と似た感性をもった同僚へと落ち着いている。

 そして、その時々の主人公の女性の心情を見事にすくい取って描いてくれているから、物語の静かな世界にどっぷりと浸り、心地よく読み進めることができる。


 この作者は、もちろん全く同じではないけれど、小川洋子、三浦しをんといったあたりに比肩しうると思う。そして、やや単線的すぎるきらいのあるストーリーに深みが出れば、芥川賞の候補になってもおかしくない筆力を持っていると思う。(芥川賞を獲れることがどれだけ良いことなのかはおいておいて。)

カレンダー
09 2024/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
最新コメント
[10/20 新免貢]
[05/08 (No Name)]
[09/09 ST25@管理人]
[09/09 (No Name)]
[07/14 ST25@管理人]
[07/04 同意見]
最新トラックバック
リンク
プロフィール
HN:
ST25
ブログ内検索
カウンター
Powered by

Copyright © [ SC School ] All rights reserved.
Special Template : 忍者ブログ de テンプレート and ブログアクセスアップ
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]