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貴志祐介 『新世界より(上)・(中)・(下)』 (講談社文庫、2011年)
戦慄。 読書でここまでおもしろさに興奮したのは久しぶり。 おもしろかった。
1000年後の日本は、放射能の影響を思わせる奇態な生き物たちが蠢く異様な世界に変わっていた。 しかし、そこでは、思い描いたことを実現する「呪力」を持った人々が、知能が発達したバケネズミを奴隷とし、実に平和で穏やかな生活を送っている。
その理由の一つには、人類が人類に対して攻撃すると自らの命が絶たれるという生理的なメカニズムである「 愧死機構(“きし”きこう) 」(作者と同じ名前)を備えていることがある。 また、何やら秘密主義的で管理主義的な教育制度が整備されてもいる。
そんな世界で、主人公たちを危機が襲う、というSF小説。
ファンタジー的、ミステリー的な話の展開のおもしろさはもちろんのこと、ほかにも、話の設定が過去から現代までの人類たちの歴史の延長線上にあったり、その進化が皮肉な結果をもたらしたりと、何重にも話のおもしろみがある。
それこそ、ハックスリー『すばらしい新世界』における近未来の悲劇と、チャペック『山椒魚戦争』における(誰か/何かを支配するという)帝国主義の悲劇とを合わせたような、深みとおもしろみがある。
難点としては、子供たちが命の危険を冒して規則を破りすぎていたり、危険なところを行くのに呪力を簡単に奪ってしまっていたりという、ご都合主義的な展開がいくつか散見されたところ。
ただ、そこまで致命的なほどではないし、それを補ってあまりあるほど圧倒的な迫力と勢いが物語全体にみなぎっている。
この手の壮大な物語を書く日本人作家はあまりいないだけに、感動もひとしおだった。