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 J.G.バラード 『殺す(山田順子訳/東京創元社、1998年)
 
 
 新年早々、物騒なタイトルだけど、他意はありません。

 高級住宅地で起きた大量殺人事件から浮かび上がる、今で言う「ゲイテッド・コミュニティ(gated comunnity)」(やそういうものを求める人間心理)の病理を浮き彫りにした、SF作家J.G.バラードの1988年の予言的小説。

 短い中で、事件に絡めたミステリー的な方向と近未来社会への警告的な方向とでどっちつかずになってしまっていて、どっちとも掘り下げが浅い。

 そんなわけで、これを20年前に書いていたことに対する(多少の)評価以外には、特に褒めるべきところはない。
 
 
 人間の、すべてを思うがままにコントロールしたいという理性的・神的な欲求の帰結はいろいろなところで指摘されてることだし、この程度であれば、一般人が日常生活で感得できることでもある。

 つまり、SF的な想像の伸びも小さい。

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 マイクル・ムアコック 『軍犬と世界の痛み 〈永遠の戦士フォン・ベック1〉(小尾芙佐訳/ハヤカワ文庫SF、2007年)
 
 
 17世紀、三十年戦争下のヨーロッパを舞台に、神と和解したい堕天使ルシファーと契約を結んだ、冷酷な戦士ウルリッヒ・フォン・ベックの“聖杯”探しの世界を巡る旅を描いたSFファンタジー。

 話の筋はシンプルだけど、話の射程は壮大。

 中世キリスト教の世界観を描いたダンテの『神曲』とは、話の展開のさせ方が似てるけど、その内容は、『神曲』の時代的な拘束を突き抜けてより汎歴史的になっている。
 
 
 “聖杯”は、キリストが最後の晩餐で用いたとされ、また、十字架上のキリストの血を注ぎ入れたとされる。そして、そこから、その神聖な杯(いろいろなものに表象される)を見つけると、世界の痛みを癒してくれるという。

 では、この小説において“聖杯”とは何であり、それが発見されるとこの世界はどうなるのだろうか――?
 
 
 それについては、何を書いてもネタバレになりそうだけど、簡単に2点だけ書いておく。
 
 
 この小説では、“聖杯”による「癒し」とは言っても、近年流行っていてもはや日常語にもなりかけている“癒し”とは、その癒される内実においても、その癒しの方法においても、まったく異なる。

 また、それとも絡んで、この小説は、最後、それまでの話(世界)やそこで前提とされていたものを全否定する。最後にまったく新しい世界を創り出すと言ってもいいかもしれない。
 
 
 果たして、現代人は、ムアコックが描いた“世界の進化”に着いて行けてるだろうか?

 Charles Dickens. A Tale of Two Cities (Oxford Bookworms Library 4) , Retolded by Ralph Mowat, Oxford University Press, 2000.
 
 
 (英語圏の)子供向けに簡単に作り直されているシリーズの1冊。1400 headwords。

 フランス革命時の人間模様を描いた、ディケンズのA Tale of Two Cities(全文)。邦訳は、『二都物語』(新潮文庫)。

 英語の小説があまりにも読めないから、とりあえずこんなものから読んでみた。

 分からない単語もほんのいくつかで何の苦もなく読めた。

 これは6つ段階(stage)があるうちの4つめ(難易度4)なのだけど、それでも実際の小説とは格段の差。こんなのをたくさん読んだところで実際の小説を読めるようには絶対にならない。

 中学生、高校生(日本の)が、慣れと速読の習得のために読むにはいいんだろうけど。( というか、日本の英語教育はタラタラ全文訳するばかりではなくて、こういうドリル的な量をこなす学習をもっとすべきだと思う。少なくとも自分はそういう教育を受けなかった。)

 ということで、自分の英語学習的には、次はもう少し上のレベルのを読む必要がある。
 
 
 ところで、内容的には、話の筋が辿りやすいようになっていておもしろかった。( ただ、ミステリー的な、次の展開が気になる、というおもしろさが大きいように思うけど。)

 革命前後の悲惨な現実に生きる人たちの様子がよく伝わってくる。

 読み終わって、改めて、冒頭の有名な文が理解できる。

It was the best of times, it was the worst of times,
it was the age of wisdom, it was the age of foolishness,
it was the epoch of belief, it was the epoch of incredulity,
it was the season of Light, it was the season of Darkness,
it was the spring of hope, it was the winter of despair,
we had everything before us, we had nothing before us,
we were all going direct to Heaven, we were all going direct
the other way
(オリジナル版より)

 

 サミュエル・R・ディレイニー 『アインシュタイン交点(伊藤典夫訳/ハヤカワ文庫SF、1996年)
 
 
 ネビュラ賞を受賞した1967年のSF小説。

 量的にではなく、質的に読み応えがある。
 
 
 ※ アマゾンのレビューをはじめ、「分からない」という感想が多く、“分からなくていい”という連鎖が起こっている。嫌だ嫌だ。そんな状況に微力ながら一石を投じる。
 
 
 遠い未来の、人間が住まなくなり、異星生物が住み着くようになった地球が舞台。

 ストーリーの大枠は、欧米では馴染み深い“聖杯伝説”に基づいている。

 すなわち、若き主人公ロービーは、笛のように音楽を奏でることもできる剣を持ち、恋人を殺したキッド・デスを殺すための旅をする。そのキッド・デスは、あたかも神になるかのごとく、全てを支配(コントロール)しようとしている。が、そのためには“音楽”(※これが何を意味してるかは後ほど)を司るロービーと“創造”を司るグリーン=アイの助けが必要である。

 このロービー対キッド・デスという大枠がまずある。

 ちなみに、神話的には、ロービーがキッド・デスを殺すことができれば、新しい世界が開けてくるだろうと推測できる。

 一方で、この旅の過程で、ロービーは世界の真実を知っていく。

 この世界では、“違っていること”が蔑視の対象になっている。

 この“違い”とは、以前地球に住んでいた人間との違いを意味している。したがって、この異星生物たちは自分たちを人間に近づけようとしている。

 人間のような種になりそれを維持するべく異星生物たちが行っているのが、乱交と人工授精による種の“コントロール”である。

 この人間世界の価値や思考に捕らわれた異星生物たちを解放する役割も、ロービーが背負っている。

  死はない。あるのは音楽だけ (p145)

  死はなく、愛があるだけ (p134)

 つまり、“音楽”とは“愛”を表し、“音楽”を奏でることができるロービーは“愛”を司っているのである。

 そのロービーが(コントロールを司る)キッド・デスを倒し、世界の王座を占めることは、“愛”がこの世界の新しい支配原理になることを意味する。

 “愛”という、この異星生物たちにとってのありのままの自然な感情がこの世界を席巻するとき、異星生物たちは、人間(が有していた価値や思考)というくびきから解放されて、自分たちの世界/地球を確立することになるのだ。

 そして、これこそが、アインシュタイン曲線とゲーデル曲線の交点をゲーデル的に超えていくということだ。(※ ゲーデルの理解が間違っていることは著者自身が認めている。)

 さらば、人類! さらば、人類の地球! そして、愛が溢れる新しい地球へ!
 
 
 そう、自分は解釈した。

 ヴィクトル・ペレーヴィン 『眠れ 〔群像社ライブラリー2〕(三浦清美訳/群像社、1996年)
 
 
 現代ロシアの新進気鋭の作家による短編集。ロシアでは、(1991年の話ではあるけど)本が発売数日で完売になったほどの人気作家であるとのこと。

 とはいえ、大衆向けの娯楽作品ではなく、各種文学賞も受賞するような小説である。

 作風は、村上春樹を少しSFチックにした感じ。日常の一断片をファンタジックに切り取って題材にしているあたりは、特に村上春樹風。

 日常の普段全く意識しないおかしなことを気付かせてくれる。その上、最後に、そのおかしなことの帰結まで話を展開させてくれているものもある。

 1991年の作品であることもあってか、当時やそれ以前のロシアの時代状況を直接・間接に意識した描写も見られる。けど、それを気にしなくても問題なく読める。

 テレビゲームの世界と現実の世界が錯綜する「ゴスプランの王子さま」、下らないクソだらけな世界を描いている「ヴェーラ・パーヴロヴナの九番目の夢」、みんな眠りながら生活している「眠れ」が、特におもしろかった。

 「世捨て男と六本指」は、よく情景を理解・想像できなかった。

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