[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
マイクル・ムアコック 『軍犬と世界の痛み 〈永遠の戦士フォン・ベック1〉』 (小尾芙佐訳/ハヤカワ文庫SF、2007年)
17世紀、三十年戦争下のヨーロッパを舞台に、神と和解したい堕天使ルシファーと契約を結んだ、冷酷な戦士ウルリッヒ・フォン・ベックの“聖杯”探しの世界を巡る旅を描いたSFファンタジー。
話の筋はシンプルだけど、話の射程は壮大。
中世キリスト教の世界観を描いたダンテの『神曲』とは、話の展開のさせ方が似てるけど、その内容は、『神曲』の時代的な拘束を突き抜けてより汎歴史的になっている。
“聖杯”は、キリストが最後の晩餐で用いたとされ、また、十字架上のキリストの血を注ぎ入れたとされる。そして、そこから、その神聖な杯(いろいろなものに表象される)を見つけると、世界の痛みを癒してくれるという。
では、この小説において“聖杯”とは何であり、それが発見されるとこの世界はどうなるのだろうか――?
それについては、何を書いてもネタバレになりそうだけど、簡単に2点だけ書いておく。
この小説では、“聖杯”による「癒し」とは言っても、近年流行っていてもはや日常語にもなりかけている“癒し”とは、その癒される内実においても、その癒しの方法においても、まったく異なる。
また、それとも絡んで、この小説は、最後、それまでの話(世界)やそこで前提とされていたものを全否定する。最後にまったく新しい世界を創り出すと言ってもいいかもしれない。
果たして、現代人は、ムアコックが描いた“世界の進化”に着いて行けてるだろうか?