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 パール・バック 『神の火を制御せよ――原爆をつくった人びと(丸田浩監修、小林政子訳/径書房、2007年)
 
 
 ノーベル賞作家パール・バックが、史実を参考にしながら原爆を作った科学者たちを描いた1959年の小説。

 実際の原爆製造までの過程、原爆の技術的・科学的なメカニズム、科学者たちの間の人間模様、科学者たちの家族の話、科学者と日系アメリカ人との関わり、個々の科学者の内的葛藤/正当化過程など、さまざまな視点が取り入れられている。

 「科学者に対する製造責任を問う!」みたいな浅はかで単純な内容にはなっていない。

 科学者の家族の話にしても、その妻たちが原爆のような兵器を純粋に恐れつつも何も知らされていない一般世間を代表するような役割を小説上負わされていたりして、安易な家族愛や恋愛みたいな話にはなっていない。

 そんなわけで、原爆製造に関わった科学者たちも決して(分かりやすく)愚かには描かれていない。それぞれがそれぞれなりの理屈や価値観をもって行動している。(もちろん、一部はやや過激で滑稽ではあるけれど。)

 そんな科学者たちの中心的人物による、原爆を投下し戦争が終わった後の次の発言は、科学者たちの姿を端的に表しているように思う。結果から見ると、ただただ虚しい。

いいか、モリー(妻)。新聞にも出てるだろう、戦争は終わったんだ。ティム(息子)は無事に帰ってくる。ピーター(同じく息子)は戦争に行かなくていい。二度と戦争は起こらんだろう。たぶん、戦争のために死ぬことも、悲しむことも、失うことも、みんな永久になくなる (p362)

 
 
 この小説を読んで、「やっぱり原爆は駄目だ」「戦争は駄目だ」で留まっていてはいけない。それではきっと、ここで描かれる科学者たちと同じ道を歩むことになる。いくら一人が良心を持ったところで原爆は作られてしまうのだ。さて、人類はどうすべきなのだろうか。

 てなことを考えたら、やはり、シェリングの『紛争の戦略』(剄草書房)あたりに読み進むべきなのだろう。(もちろん解決策が語られているわけではないにしても。) とはいえ、数学とか値段の問題もあって躊躇ってしまうのだ。

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 ヘルマン・ヘッセ 『車輪の下(高橋健二訳/新潮文庫、1951年)
 
 
 色々な要素が詰まった1906年発表の自伝的青春小説。

 子供の気持ちを省みることなく勉強させ型にはめ込もうとする大人たち、誰にも理解されないと感じることで至る孤独と虚無、一歩外の世界に出て出会う刺激的な未知なる人間(友達)、勉強ができることによる身の丈以上のプライドとそれとは対照的な力仕事をしてる人たちの自然な振る舞い、都会の生活に疲れふと帰りたくなる子供時代に過ごした故郷、小さい頃の友達とのまったく気兼ねすることのない関係、つい逃げ出したくなってしまうような慣れない恋愛、等々、時代は違えど今に通じる青春小説の傑作(とまで言うにはもう一歩)。
 
 

 ああ、われはいたく疲れたり
 ああ、われはいたく弱りたり (p153)

 勉強のできる優秀な子供として周りの子供たちとは違う特別扱いを受け、エリートの道を順調に歩んでいた少年ハンスは、(色々な出来事を経て)ふと我に返り自分を見つめ直すことで、他人から与えられた目的に従うだけの自分の人生に虚しさを覚える。そして、勉強のやる気を完全に喪失し、エリートの道から弾き出される。

こうして早熟の少年は(中略)、現実ならぬ第二の幼年時代を味わうということになった。 (p156)

 少年には故郷があった。ハンスは、自然溢れる故郷に戻り、およそ理性的とは言い難い力仕事の世界に入る。そして、懐かしい子供の頃と同じ気持ちを味わえるそこに、魂の安らぐ場を見出す。

 その荒っぽい世界で若くして荒っぽい死に方で死んでしまうハンスは、最後まで彼の個性を理解できないで嘆き悲しむ大人たちの考えとは異なり、それでも幸せだったのだろう。
 
 
 理性的な生き方と野生的な生き方、都市と田舎、自由と束縛、理想と現実など、人生を歩んでいく過程で片方を捨て片方を選ばざるをえないものは多い。

 捨てたものを忘れて自分が選んだものを絶対化する人もいるだろうけど、捨ててきたものを頭の片隅に残している人も多いだろう。

 この小説は、そんな頭の片隅に残っている捨ててきたものたちを(ちょっと理想化した形で)思い出させてくれる。

 ああ懐かしい。昔は良かったなあ。(でも捨てざるを得なかったのだ)
 
 
 ところで、この新潮文庫版は古いためか訳がいまいち。日本語として意味の通りにくい文になってたり、「lover」と思われる単語を「愛人」と訳してたり。(辞書的には「愛人」に“愛する人”という意味はあるけど今では使わない。) アマゾンのレビューを見た感じ、読むなら光文社古典新訳文庫版の方が良さそう。

 ウィリアム・シェイクスピア 『オセロー(福田恒存訳/新潮文庫、1973年)
 
 
 妬みを持ったイアーゴーのデマ(妻が不倫?)を聞いた高潔な黒人将軍オセローが嫉妬を生じさせ破滅に至る物語。四大悲劇の一つ。

 ありもしない話に心を動かされ悲劇に至ってしまうというのはいかにもシェイクスピアらしいやり口。“心(人間)の弱さ”という人類普遍の真理を感じさせる。あるいは、“言葉の強さ”と言ってもいいかもしれない。

 でも、この『オセロー』は、シェイクスピアの他の有名作品に比べると話が深まっていかない印象を受けた。

 人物の中での葛藤があまりないからかもしれない。

 オセローは、イアーゴーにデマを言われた後は全く妻を信じることなく破滅へと突き進んでいく。

 この単線性が話を浅いものにしてしまっているようだ。

 もともと話のシンプルさはシェイクスピアの戯曲の特徴の一つではあるけれど、それでもここまでシンプルだとさすがに軽すぎるようだ。

 アルフレッド・ベスター 『ゴーレム100(渡辺佐智江訳/国書刊行会、2007年)
 
 
 表記できないけど、タイトルは、正確には「ゴーレム百乗」。

 22世紀のスラム化した都市で、集合的無意識によって呼び出された悪魔「ゴーレム100」をめぐる、人間の生(と性)と死、人類の進化を賭けた死闘が繰り広げられる。1980年の伝説的SF小説。

 ネット上で色々と感想を読んだところ、具体的にどことも示さず、「とにかくぶっ飛んでてすごい!」というような感想が多い。

 その感覚はよく分かる。

 500ページ弱の最初から最後まで、休むことなくSF的奇想・妄想、実験的小説手法がぶちまけられていて、全篇が異様な熱気に覆われていて、疾風怒濤のごとく読み進まされ、読み終わった後もその熱気が残り続ける。

 でも、その一方で、冷静に考えてみると、テンションばかり高くて、あるいは、手法ばかり凝ってて、中身に乏しいのではないかという疑念も沸いてくる。

 「熱気」の内実や如何。

 ということで、もう一度読んでみる必要がある。

 とはいえ、すぐに読む気持ちでもないから、とりあえず今のどっちつかずの感想をそのまま書いた次第。

 DBC ピエール 『ヴァーノン・ゴッド・リトル――死をめぐる21世紀の喜劇(都甲幸治訳/ヴィレッジブックス、2007年)
 
 
  痛快無類の文体で、現代アメリカを黒い笑いの連打で駆け抜ける ブッカー賞受賞の大問題作 という帯の宣伝文句に惹かれて読んだ。

 今のアメリカの日常において起こり得る悲劇(はたから見れば喜劇)を、クソだと思ってるその日常によって悲劇に巻き込まれてしまう15歳の少年の語りを通して描いている。

 描かれる日常は、家族事情、地域社会、学校でのいじめ、少年犯罪、銃犯罪、憲法、マスメディア、同性愛、薬物、貧困、ダイエット、移民、陪審制、宗教、死刑制度などなど、実に幅広く充実している。

 まさに“アメリカの現実”(日本で伝え聞くものだけど)のあらゆる面を網羅してぶち込んでいる。

 その、ごくありふれた現実が、原因と結果の必然的なつながりのはてに、一人の少年を死へと追いやる。

 その恐ろしさと愚かしさが強烈なメッセージとして伝わってくる。

 それはもちろん、日本の現実に当てはまるものも多く、日本人でも実感を伴って読むことができる。悪を祭り上げようとする国民の欲望とメディアの報道なんか特に。

 そんなわけで、アメリカの日常・現実のあらゆる面を網羅しているところと、その日常・現実を生きる普通の人たちに対する強烈な批判的メッセージというところでは、読み応えもあって評価できる。

 ただ、「ありきたり」とか「現実そのまますぎる」と言えなくもなくて、全体的に創造性に欠けるようにも思う。

 まとめれば、つまらないこともないけど、取り立てておもしろいということもない小説。
 
 
 ちなみに、(帯の)「痛快無類の文体」に関しては、おそらく訳の問題のために、それほど感じない。

 単語レベルでは相当に汚い用語が頻発してるのに、口調とか語尾とかが真面目な感じで噛み合ってなくて、違和感を覚える。

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