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DBC ピエール 『ヴァーノン・ゴッド・リトル――死をめぐる21世紀の喜劇』 (都甲幸治訳/ヴィレッジブックス、2007年)
「 痛快無類の文体で、現代アメリカを黒い笑いの連打で駆け抜ける ブッカー賞受賞の大問題作 」という帯の宣伝文句に惹かれて読んだ。
今のアメリカの日常において起こり得る悲劇(はたから見れば喜劇)を、クソだと思ってるその日常によって悲劇に巻き込まれてしまう15歳の少年の語りを通して描いている。
描かれる日常は、家族事情、地域社会、学校でのいじめ、少年犯罪、銃犯罪、憲法、マスメディア、同性愛、薬物、貧困、ダイエット、移民、陪審制、宗教、死刑制度などなど、実に幅広く充実している。
まさに“アメリカの現実”(日本で伝え聞くものだけど)のあらゆる面を網羅してぶち込んでいる。
その、ごくありふれた現実が、原因と結果の必然的なつながりのはてに、一人の少年を死へと追いやる。
その恐ろしさと愚かしさが強烈なメッセージとして伝わってくる。
それはもちろん、日本の現実に当てはまるものも多く、日本人でも実感を伴って読むことができる。悪を祭り上げようとする国民の欲望とメディアの報道なんか特に。
そんなわけで、アメリカの日常・現実のあらゆる面を網羅しているところと、その日常・現実を生きる普通の人たちに対する強烈な批判的メッセージというところでは、読み応えもあって評価できる。
ただ、「ありきたり」とか「現実そのまますぎる」と言えなくもなくて、全体的に創造性に欠けるようにも思う。
まとめれば、つまらないこともないけど、取り立てておもしろいということもない小説。
ちなみに、(帯の)「痛快無類の文体」に関しては、おそらく訳の問題のために、それほど感じない。
単語レベルでは相当に汚い用語が頻発してるのに、口調とか語尾とかが真面目な感じで噛み合ってなくて、違和感を覚える。