by ST25
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高橋源一郎 『競馬漂流記――では、また、世界のどこかの観客席で』 (集英社文庫、2013年)
17番人気で2着になった凱旋門賞のホワイトマズル。香港に遠征したフジヤマケンザンと森調教師と蛯名騎手。アメリカの競馬雑誌の表紙を飾ったジャパンカップ勝利後のレガシーワールド。はたまた、「黄金の馬」アハルテケ種。「3年で100億すった男」テリイ・ラムズデン。
多様な話題を様々な観点から楽しむ筆者の姿勢は、熱くなることもなく、一見冷めているように見えなくもない。しかしそれは、自らの力では結果を変えることもできないし結果を予想し尽くすこともできないという達観から、純粋に目の前のドラマを楽しませてもらう「観客」に徹するという筆者の謙虚な信念によるものに思える。
そんな謙虚な筆者と世界の競馬を漂流する旅はなかなか味わい深いものだ。
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中村文則 『迷宮』 (新潮文庫、2015年)
ミステリー的なストーリー性もありつつ、人間の心の奥底に眠る闇にも迫る文学的な小説で、とてもおもしろい。
世にストーカー事件がはびこっていることからもわかるとおり、人間は偏執的な感情を抱くことが間々あり、それは往々にして歯止めがきかず精神的にほとんど壊れてしまったかのような状態にまでなる。
この小説に出てくる殺人事件の被害者たちはまさにそんな人たちだ。彼らはもちろん一面では加害者でもある。その彼らによる被害を受けたのが生き残った女性だ。女性は狂気に囲まれた鬱屈した状況から脱走するべく「狂気」を自ら招き入れるという選択をする。
そんな奥底に狂気を秘めた女性に引かれたのが、かつて自らの中に「R」という狂気な人格を持っていた主人公の男性だった。
この辺の踏み込みは200頁ほどのこの小説ではそこまで深くなく、全体的にも表面的な出来事中心に話は進んでいくけれど、スムーズに読み進められるのはその背景となる人物描写に説得力があるからだろうと思う。
人間の内面にあまり踏み込まない小説が多い中、孤軍奮闘する中村文則の作品は全制覇したいところだ。
杉山奈津子 『[精選版]偏差値29からの東大合格法』 (中公新書ラクレ、2014年)
古いし、自分の体験を絶対化しているし、タイトルから受ける印象にとって不利になる情報は極力隠しているし、参考にすべきではないことの方が多そうな本。
とかく教育に関する問題は、皆が自己の体験があるだけに、皆がさも専門家であるかのように語り始める。しかもその内容は自己の体験を肯定的に捉えていればそれが唯一の正解であるかのように、自己の体験を否定的に捉えていればそれが絶対にやってはいけない誤った道であるかのうに。
中教審の審議内容もそんな色が濃厚だ。
困ったものだ。
伊藤計劃 『ハーモニー [新版]』 (ハヤカワ文庫、2014年)
「大災禍」の後、他者への思いやりに溢れ、健康状態を全て監視し病気になることもない、そんな「ユートピア」を築き上げた人類。感情も健康も自然任せにせず、全てを人工的に管理する。そんな「生府」がコントロールする世界で、その状態に満足できない少女がその世界を破壊しようと試みる。
常日頃、何の疑いもなく正しいと信じられている価値(優しさ、健康など)を徹底することで生じるユートピアではない「ディストピア」。本の中でも出てくる『すばらしき新世界』やミシェル・フーコーといった先達たちの遺産を受け継ぎつつも、脳科学の知見などを用いた独自の哲学的洞察も垣間見ることができる。人間にとって根本となる人間性とは何か?
物語としてのおもしろさと哲学的・SF的洞察のおもしろさが二重に重なりつつ読み進められる読み応えのあるSF小説だった。
指原莉乃 『逆転力――ピンチを待て』 (講談社AKB48新書、2014年)
そんな印象が一変する。
すごい奴。徹底的に自分を客観視し、変なプライドを一切もたず、変幻自在に周囲の要求や期待に応えていける。
これから指原が出ているテレビ番組とかを見て今までと同じように気楽に笑えるか心配になってしまう。ちょっと身構えてみてしまいそうだ。
ちなみに、指原と同じことができるに越したことはないだろうけれど、「変なプライドを一切もたない」というところはかなりハードルが高い。