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重松清 『きよしこ』 (新潮文庫、2005年)
吃音持ちの少年が小学一年生から高校三年生までの間に経験した7つの話からなる小説。
少年は、つっかかるのを恐れて「カ」行や「タ」行や濁音で始まる言葉を使うのを控えてしまう。そのため、いつも、言いたいこと、言うべきことが言えないでいる。
色々考えてしまい、言いたいこと、言うべきことが言えない、というのは誰にでもあることだ。
いずれにせよ、それは結局、自分の弱さによるものだったりする。
こうして、吃音の少年が描かれていながらも、その少年の姿が自分自身にオーバーラップしてくる。
弱い自分。そして、その弱さに発する数々の(甘酸っぱい)失敗を(一応)乗り越えてきた今の自分。
そんな普遍的でリアルな人間を描ける重松清は、実に人間のことをよく分かってるなぁと(改めて)思う。
そして、つい弱さが出てしまうときの微妙な状況や心の葛藤を見事にすくい取れる重松清の力量は、さすがだなぁと(改めて)思う。
ヒヨコ舎 『本棚2』 (アスペクト、2008年)
作家などの本棚を写真と本人への本についてのインタビュー付きで収録している本。収録されているのは、有栖川有栖、神林長平、都築響一、西加奈子、やくみつる、山崎ナオコーラ、夢枕獏など14人。
人の本棚を見るのはとても楽しい。本を読むことと同様に本を集めることにも楽しみを感じる人間にとっては。
「おおやっぱり」という本があったり、「こんなのも読んでるの」という意外な本があったり、自分も持ってる本があって妙な仲間意識を持ったり、自分が存在さえ知らなかったおもしろそうな本があったり・・・・。そして何より、本の詰まった本棚の姿は壮観だ。
ちなみに、個人的には有栖川有栖の本棚が一番自分の趣味に合う。量が多くて、でも秩序だってて、そして本以外の余計なものが少なくて、ってのがいい。
西島大介 『ディエンビエンフー(1)・(2)・(3)』 (小学館、2007~2008年)
ベトナム戦争をかなり戯画化・抽象化・記号化して描いたマンガ。
いろんな人が出てきては次々と体をバラバラにされて死んでしまうあたりは、リアルではある。
けれど、ベトナム戦争に関してはそういったことも映像によってすでに様々に描かれているから、今さらマンガで描かれてもおもしろみも意義も全くない。
登場人物も、出てきてはすぐ死んでしまうし、ストーリーも、人が出てきては死ぬという以上のものはない。
さらに、『地獄の黙示録』のようなベトナム戦争に関する既存の映画などの描写を(隠そうともせず)ただ真似てるだけだったりする。
どこがおもしろいのか、何がありがたいのか、さっぱり分からない。(おもしろくも、ありがたくもないのは、よく分かる。)
白井恭弘 『外国語学習の科学――第二言語習得論とは何か』 (岩波新書、2008年)
巷に溢れる胡散臭い独り善がりなハウツー本とは一線を画し、学問的蓄積に基づいて、外国語学習における多様な側面を冷静かつ丁寧に概括している良書。
具体的には、言語自体、母語の習得、学習者による違い、外国語習得のメカニズムなどが考察されている。そして、最後に、現在の研究の蓄積から考えられる効果的な外国語の学習法が簡単に示されている。
結論として何か斬新なものが提示されているわけではない。
けれど、巷に溢れる、奇をてらった、商業主義的な、一個人の経験だけに基づく、どうしようもない代物たちの胡散臭さを際立たせるという点、そして、外国語学習の際に気をつけるべきポイントを提示しているという点で、大変意義のある一冊。
赤井邦彦 『鈴木亜久里の挫折――F1チーム破綻の真実』 (文春文庫、2008年)
鈴木亜久里によるF1チームの立ち上げから撤退に至るまでの2年半を描いたドキュメント。
その舞台裏を知っても、やはり、外側から見て想像していた通り、お金に泣かざるを得なかった現実が明らかになっている。
あくまで第二チームを持つつもりのない資金協力に消極的なホンダ。ビジネスとしてのスポーツという意識が弱くオールジャパンのチームであってもスポンサーの成り手の出てこない日本企業。そして、華やかな世界にすり寄ってくる口先だけの胡散臭い連中たち。
しかし、参戦2年目でポイントを獲得し、上位チームのマシンに喰ってかかり、本家のホンダを上回る成績を何度も出したりという、栄光と興奮の記憶が久しぶりに甦ってきた。
本当に楽しい日々だった。
佐藤琢磨とスーパー・アグリF1チーム。どちらも、一途な気持ちだけで裸一貫から這い上がってきた特別な存在だ。
そんな彼らが、どちらも、道半ばで中途半端な終わり方をせざるを得なかった(得ない)というのは、なんとも寂しいことだ。
なにが「Power of Dream」だ。
というような総括をすることを可能にしてくれるくらい、この本は包括的に書かれている。 (ホンダのことを無理して擁護しすぎな気がするけれど。)