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 佐藤伸行 『ドナルド・トランプ(文春新書、2016年)

 

 大統領選の結果が出る前の2016年8月に出版された本。トランプ大統領のことを包括的に描いていて、テレビなどで取り上げられる戯画化されたトランプ像に半信半疑で接している慎重派な人が基本的な知識をおさえるのにちょうどいい。書かれているのは、トランプ家のルーツ、祖父や父や母などの家族のこと、ドナルドの子供時代や学生時代、結婚歴、ビジネス歴、宗教や移民などについての以前の発言など。

 実際のところ、この本を読むことによって巷で流布しているトランプ像が変わることはあまりない。むしろ、その自由奔放さや豪胆さや節操のなさがより強められる。

 また、この本ではトランプの人間像に焦点を当てているから、この本を読んで今後のトランプ政権の政策が推測できるようになるわけではない。もちろん、トランプの性格を知ることは推測の役には立つけれど。

 と書いてくると、ただののぞき見趣味なことしか書いてない無意味な本に感じてしまいそうだけど、そんなことはない。

 例えば、トランプ家はドイツ系の移民だったとか、ビジネスで大成功を収めるまでに自己破産をしたこともあるとか、白人の地位低下や非白人の悪事を煽るとかいった事実はトランプによる政治を占う手掛かりになりそうだ。

 特に、白人についてのトランプの発言をたどりながら、「白人のルサンチマン」がトランプ支持の背景にあるという筆者が強調している点は日本では軽視されがちだ。確かに大統領選でヒスパニックなどが勝敗をわけるという報道はしばしばなされている。しかし、そうはいってもアメリカは依然として白人(ワスプ)が多数派を占め、白人が牛耳っている国には変わりはないと考えている人が多いだろう。けれど、本書でも述べられているデータによると非ヒスパニックの白人がマイノリティに転落する日も遠くないということだ。そして、それにともない白人たちが「かつてのアメリカ」の消失や「逆差別」を嘆いているというのだ。そういう人たちが移民を拒絶し、イスラムに嫌悪を抱き、トランプを支持するということは確かにありそうだ。

 また、もっと浅いレベルのことで言えば、トランプがテレビ番組で人気を博していた人物であったということは日本であまり強調されることがないように思う。大金持ちが急に過激な発言で国民から支持されるようになったわけではない。この点、テレビで知名度を得ていて、なおかつビジネスで成功しているという点で、日本で言うところのホリエモンと同じような存在としてアメリカ国民から思われているのかもしれないと思った。


 何はともあれ、トランプ大統領になった以上、「ありえない」「ありえない」と嘆いていてもどうしようもない。感情的にならず、冷静にトランプ政権やアメリカのことを見つめる視点を持ち続けたいものだ。そんな気持ちの実践の第一歩としてちょうどいい本だった。

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 小口日出彦 『情報参謀(講談社現代新書、2016年)

 

 著者は情報コンサルタント会社を率いている民間人。自民党が下野した2009年から参院選に勝利して政権を奪還した2013年まで、自民党にメディアのマスデータを提供し、そのデータを基にした分析・助言も党の広報担当者の会議などで行った。その過程を綴った本。

 著者が率いる情報会社が取得している情報は、テレビや新聞などが何についてどれくらいどのように報道しているかを定量化したものなどである。その情報は24時間、スタッフがテレビなどを視聴し続けることによって獲得するなどアナログなものもある。もちろん、YouTubeやTwitterなどソーシャルメディアのマスデータも収集している。

 著者は、平井卓也、茂木敏充、小池百合子、世耕弘成といった自民党議員とともにそうした情報を活用していった。



 国民からの信を基に活動する議員にとって世論を正確に知ることはとても大事なことだ。したがって、テレビの報道を定量的に把握しているデータなどを知れることはとても有意義なことだ。そして実際、そのデータが政治の現場において有効な判断材料となることは、本書でも描かれているとおり、多いだろう。

 ただし、この本で描かれているのは、あくまで「情報に動かされる人間」であって、「情報を動かす人間」ではない。本書のタイトルからすると、裏で情報を操作したり、ライバルの諜報活動をしたり、ということを思い描く人もいるかもしれないが、そういうことは全くない。あくまで、「マスデータを参考にして行動した記録」に過ぎない。

 では、具体的にどのようなことを行ったのか。いくつか挙げてみる。ワールドカップ日本戦のテレビ中継で自民党のCMを流した。自民党のネット放送局を立ち上げた。自民党総裁とのツイッター対話集会を開いた。参院選の自民党全候補者にiPadを支給して情報を逐一提供した。

 これらはどれも、無いよりはあったほうが良かったのだろうけど、というものばかりだ。

 本書の問題点は、マスデータを政治に持ち込んだことがどれだけ意義があったのかが明らかではないということだ。通読した限り、世論の大勢に影響を及ぼすこともないし、選挙結果の大勢に影響を及ぼすこともないように感じる。

 本書の帯には「自民党、政権奪還の深層」と赤字で書かれているけれど、これは過大評価だと思う。そんなことを感じた本。



 NHKスペシャル取材班編著 『日本人はなぜ戦争へと向かったのか――メディアと民衆・指導者編(新潮文庫、2015年)

 

 2011年に放送されたNHKスペシャルを書籍化したもの。「メディアと民衆・指導者編」、「外交・陸軍編」、「果てしなき戦線拡大編」の3冊に分かれている。

 この「メディアと民衆・指導者編」では、まず第1章で「メディアと民衆――“世論”と“国益”のための報道」として、取材班による概要と3人の専門家へのインタビューが収められている。販売部数などの経済的な利益に惹かれ、また、政府・軍部による圧力により、戦意高揚を助ける報道を続けたメディア。メディアの影響もあり強硬な路線へと惹かれる国民世論。その世論に迎合するメディア・・・。悪者は誰だという感情論に傾くことなく当時のメディアと国民と政府・軍の相互作用を詳らかにしていて勉強になる。また、ラジオでは名演説家・永井柳太郎の演説が聴衆の熱気とともに放送されていた。たとえ内容が同じであっても、それを文字で読むのと耳で聞くのでは受け取られ方も大いに異なる。活字メディアではないが故の特徴、すなわち、感情によりダイレクトに訴えるという特徴を有するラジオが戦意高揚に果たした役割の指摘も、個人的には新鮮で面白いと感じた。

 第2章では「指導者――“非決定”が導いた戦争」と題して、取材班によるまとめと3人の専門家へのインタビューが収録されている。首相や軍部大臣など指導者たちが自身の責任に帰せられることを避け、それが故に、ネガティブな情報は隠匿され、決断を誰も行わない。こうして誰も何も決定することなく、非決定のまま戦争へと突き進んだ過程が個人名や証言なども挙げた上で具体的に語られている。この点に関してはかねてよりしばしば指摘されてきていて、新鮮な面白みは特に感じなかったが、日本人にとって忘れるべきでない大切な点だ。ちなみに、この日本的組織や日本人(日本的組織人)の問題に関しては別巻の「外交・陸軍編」にも詳しい記述がある。


 さて、ここで翻って現代の日本を顧みるに、ワンフレーズポリティクスが話題になり、自らの主張のためなら疑わしい根拠やすかすかなロジックに基づいた言説を平気で吐く議員が跋扈し、無責任な対応をして手厳しい批判を浴びる企業が後を絶たない。戦争を避けるために戦争反対を叫ぶことも無駄ではないのだろう。けれど、果たして、その行動はどこまで理性的なものなのだろうか。あるいは、どこまで真摯なものなのだろうか。もし仮に国民の8割が「戦争やむなし」の意見を持つようになったとき、「戦争反対の叫び」は果たして戦争を止めることができるのだろうか。叫ぶだけで止められるほど戦争は(戦争へと至る道は)単純なものなのだろうか。先の戦争を学び、その教訓を導き、それを今に生かしていくことは、本来まず当然のこととして行われるべきことだろうと、自戒の念も込めて、思う。



 増田寛也編 『地方消滅(中公新書、2014年)

 

 1億2000万。人口は減っていくと言われてはいるけれど、この馴染み深い数字が相も変わらずに保たれている現状では、人口減少を現実感を伴って感じることはなかなか難しい。

 だが、それはあくまで今までの話であって、これからは感覚的には「急激に」人口は減っていく。2050年、今から35年も経てば日本の人口は9700万人になっている。となれば、1億2000万という数字が崩れ、1億1000万になる日はそう遠くはない。

 と、考えていくとなかなかに恐ろしい時代に突入していくことになりそうだ。そんな時代を象徴するかのような事態が、子供が減り高齢者が増える少子高齢化に止まらず、高齢者までもが減っていくという事態だ。そうなれば、ついには「地方消滅」という言葉さえリアルなものとして恐ろしくも迫ってくる。

 そんな、(特に都市部の人間には)聞いたことはあってもいまいち危機感に迫られない人口減少という問題をこの本は重要な問題としてリアルに感じさせてくれる。

 最後に各区市町村の2040年の人口予測が掲載されている。これもなかなか実感を伴って問題の大きさを理解させてくれる。例えば、大都会・東京であっても、杉並区は2010年約55万人である人口が2040年には約47万人とおよそ8万人も減る予測になっている。となると、地方では人口1万人を下回りそうな自治体が続出することになる。


 ちなみに、現状分析の後には人口減少に対して講じられるべき施策も書かれている。ただ、おおざっぱだったり、列挙しているだけだったりで、政府の白書のような書きっぷりでいまいち処方箋としては弱いと感じる。もちろん、紙幅の都合もあるだろうけれど。

 とはいえ、問題意識を共有するという第一段階に関しては成功していると思うし、元岩手県知事の増田氏と日本総研の藻谷氏の対談はなかなかすっきりと問題や対策の根幹がまとまっていて参考になる。


 今までと同じ状態が続くだろうと安易に考えてしまう「1億2000万人」で育ってきた大人たちこそ今後に起こることを正面から受け止めないといけないのだろう。



 

 寺島実郎 『若き日本の肖像――一九〇〇年、欧州への旅(新潮文庫、2014年)

 

 1900年のパリ。万博に盛り上がるその大都市に夏目漱石がいた。
 1900年のサンクト・ペテルブルグ。王政が揺らぎ社会主義へ傾きつつあるロシアで諜報活動に暗躍する日本人・明石元二郎。

 等々、1900年のヨーロッパ各都市の様相と、そこへの日本人の関わりを追ったルポルタージュ風な歴史書あるいは啓蒙書。単行本で出版され、新潮選書になったものが、この度、文庫化された。

 筆者の落ち着いた理性的な思索とともにヨーロッパ各国を巡っていると、ヨーロッパの雰囲気にどっぷりと染まってくる。それは、アメリカ的な単純さ、明確さ、冷徹さとも違う。また、それは、日本的な曖昧さ、優柔さ、穏やかさとも違う。

 昨今、経済、政治、社会、文化どの分野においても、アメリカ化 vs 伝統的日本という対立軸で語られることが多い。個人 vs 組織、自由 vs 平等、明文化 vs 常識、超金持ち vs 総中流などだ。そこでは、どちらかを選ばざるを得ない二者択一と無意識的に受け取られている。

 しかし、そこに現代アメリカでも古来日本でもない「第三の道」は本当にないのだろうか。本書は、欧州を参照にすることで「第三の道」を見いだせるかもしれないという端緒を与えてくれる。それは「アメリカか日本か」という苦渋の決断をせざるを得ないと悲観的になっていた人への希望の光でもある。

 1920年代30年代の日本にとっての教訓は現代でも通用しそうだ。

  欧州が見えなくなると日本は混迷する(p301)

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