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 橘玲 『言ってはいけない中国の真実(新潮文庫、2018年)

 

 日々の断片的なニュースではわからない中国のさまざまなことをその背景から解説している。

 例えば、中央(中国共産党)・地方(郷鎮など)の関係は意外にも地方の力が強い、政府の役人による腐敗(収賄)が起こるのは公務員の多さやそれによる給与の少なさによる、国民自身も民主化を望んでいないといったことなどだ。

 日本で日々のニュースから受ける中国の印象は、共産党独裁で政治的自由がない一方で、経済成長著しくその恩恵が一部の富裕層を生んでいるというものだ。

 中国や韓国や北朝鮮といった国に関しては、殊に、断片的で極端なエピソードや偏見にまみれた意見が蔓延していて「真の姿」をつかみにくくなっている。国民をあげて感情的になっていてはろくなことにならないのは歴史が教えてくれているところだ。

 したがって、このような本をいろいろ読んで、多面的で冷静な知識を吸収し、きちんとした理解をしたいと改めて思わされた。

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 武内彰 『日比谷高校の奇跡(祥伝社新書、2017年)

 

 錚々たる卒業生を誇る都立日比谷高校。それが学校群制度の導入により一気に凋落した。それが再び、東大合格者を多数出すなど復活した。なぜ、復活できたのか? その理由を改革を引き継いだ校長が綴っている。

 なるほどと納得させられる改革もいろいろあった。

 しかし、それより気になったことが2つ。

 1つ目。筆者は日比谷が面倒見が良いことの例として、「年に複数回の面談をしたり、土曜講習、春・冬講習、添削指導などのほか、全教員が共有できる生徒のデータベースをつくったりしています。」(p96)と誇らしげに書いている。これ以外にも、「(朝、昼などに)教員たちが自主的に補習を行っています。」(p73)や、添削指導に関して「英語では教員1人あたり1日約40人の解答が集まります。」(p75)など、あれやこれやと様々な指導をしていることがわかる。しかし、これらをするのは全て限られた人数しかいない現場の教員たちだ。これに加え、日比谷は部活も盛んだと校長自ら豪語している。「働き方改革」や「ブラック企業」が話題になり、中学校における部活指導の負担が問題になる中、果たして、いかがなものなのか? そりゃ、成果を出せる校長や、指導してもらえる生徒と保護者はよいだろうが、当人たちはたまったものではないと思っている人もいるのではないだろうか?

 この断片的な情報を見る限り、日比谷の復活は、教員たちの過重な負担によって成し遂げられたということが推測される。

 なお、日比谷生の高3における通塾率は、「長期休業日だけ行く」という生徒を除いても、約70%にもなる(p141)ということも付言しておく。(※高1は約30%、高2は約50%)

 2つ目。本書では、あれをしたこれをしたと様々な取り組みが多数列挙されているけれども、結局のところ、日比谷高校に入ってくる生徒の質の高さというファクターを軽視すべきではない。果たして、ここで書かれていることはどれだけの高校生に敷衍できるのだろうか? 「うちでは無理」と思う高校がほとんどなのではないだろうか?

 丸山眞男、庄司薫をはじめ多方面において錚々たる卒業生を輩出している日比谷高校には、ある種の憧憬の念を抱いている者ではあるけれど、それでも、さすがに、本書は手前味噌がすぎる上に、疲弊する現場が思い浮かんでしまうだけにいかがなものかと思った。



 住野よる 『また、同じ夢を見ていた(双葉社、2016年)

 

 『君の膵臓をたべたい』の作者の第二作。『膵臓』が良かったから、他の作品も読んでみた。

 小学生の少女がさまざまな出会いを通して、「幸せとは何か?」を探っていく。



 帯の裏に、本屋の店員の「絶賛の声」が書いてある。

 「めっちゃ良かったです。」、「素敵だ!なんて、素敵な一冊なのだろう。」、「言葉の一つ一つに力が込められていて、夢、希望、挫折、絶望、心揺さぶられました。」などなど。

 小学生の感想か!まったく内容が伝わらない。ありきたりの表現ばかりで、言葉が貧困すぎる。だから、「書店員さん」なんてただの一般人でしょ!?

 と、読む前は思っていた。

 しかし、読み終わった後の今ならわかる。評価のしようがないのだ。内容がないのだ。話がありきたりすぎるのだ。


 『膵臓』も、前半を中心に内容の薄さ、表現の拙さを感じたけど後半の話の展開でまくり切っていた。しかし、こちらは後半の末脚も不発のまま終わってしまった。

 ドンマイ!


 ハリエット・アン・ジェイコブズ 『ある奴隷少女に起こった出来事(堀越ゆき訳/新潮文庫、2017年)

 

 南北戦争が始まる前、アメリカ南部の奴隷制下での一人の女性の半生を綴った自伝。約150年前に筆名(リンダ・ブレント)で書かれたものが時を経て真実だと証明され、アメリカでベストセラーになっている。

 隙を見つけては関係を迫ってくる所有主の医師。夫と奴隷少女との関係を疑い、嫉妬から少女に厳しく当たるその妻。そんな夫婦のもとでの辛く苦しい日々。自由身分を手にするために白人男性との間に子供をつくるなど様々なことを実行するが、裏切りや現実の社会制度により思い通りにはいかない。

 ここで書かれているのは、タイトル通り、あくまで一人の女性の経験に過ぎない。しかも、典型的な奴隷の一生というよりは思考力や行動力のある奴隷の一生である。したがって、これだけで奴隷制の全てを分かったと勘違いするべきではない。しかし、それでも奴隷制の現実を実感を持って知ることができる。かつて奴隷制があって人間が公的にも人間としての扱いを受けなかった時代があったということを抽象的には知っている。しかし、特に、その奴隷の側から見た生活・人生がどのようなものであったかを知ることができるノンフィクションはそう多くはないのではないだろうか。そういう意味では本書は貴重かつ有意義な本だ。

 わずか150年前に今では考えられないことが公然と行われていた。しかも現在では民主主義・自由主義の代表のようなアメリカにおいて。

 逆に言えば、今ある自由や人権もあっけなく崩れ去ることがあり得る。「権利のための闘争」や「権利の上に眠る者」といったことの重要さを改めて感じる。歴史を学ぶ意義は、いかに現代が出来上がっているのか、そこまでにどのようなことがあったのかを知り、その中から、人間というものの本質や特性を知ることにあるのではないだろうか。本書は歴史の一事象にすぎない奴隷制を通して人間の本質まで考えさせる偉大な本だ。




 岩崎育夫 『物語 シンガポールの歴史(中公新書、2013年)

 

 東南アジアにありながらアジアで最も豊かな国で、マレーシアの先端にありながら華人の国で、ごみを捨てるだけで逮捕される、マーライオンの国。

 しかし、なぜそうなったのかを全く知らない。

 そんな自分の無知を、かなりの程度この本は解決してくれた。

 依然、謎のままなのは、ごみを捨てるだけで逮捕されたり、ガムを街中で食べるだけでも逮捕されるようなモラルに厳しい国になぜなったのか、という点だけだ。



 赤道すぐそばのジャングルの小さな島を19世紀にイギリスが植民地にした。そこに出稼ぎのために中国から人がやって来た。インドからもやって来た。マレー人もいた。こうしてイギリス人、華人、マレー人、インド人からなる国ができあがった。割合として少なかったイギリス人が使用していた英語が主に使われるようになった歴史も本書には書かれている。

 太平洋戦争中は日本が占領していた時期もあった。

 そして、戦後。右往左往した後、独立国家となった。その頃から活躍しつつあったのが、日本でも馴染み深いリー・クアンユーだ。彼の時代はシンガポールが急激に経済発展していく時代ともかぶっている。筆者は、経済発展は開発独裁が成功したためだと分析している。それは国民の政治的自由を制限し、社会主義国のような経済統制さえも含むものである。また、堂々とエリートを選別し彼らを国家官僚とする仕組みを作るまでの徹底ぶりだ。イギリスの影響を受け、英語を話す、経済的に豊かな国という面からすると、意外な面があることに驚かされる。とはいえ、アジア的と言えば、まさにアジア的だ。

 経済発展に関しては、本書は経済学者の本ではないから当然だが、別の分析もあるだろうし、もっと詳細な分析を読んでみたいという気持ちになる。

 ただ、欧米を念頭に置いた、民主主義と資本主義を安易に結びつける議論に対して、シンガポールが強烈な反証になっていることは間違いない。そして、その発展の仕方が他のアジア諸国に見られる開発独裁的な手法であったことは興味深い。その先に欧米とは別の政治社会、経済社会のあり方が見えてきそうだからだ。

 ちなみに、日本もそのアジアの一団に属するのかそうでないのかは単純に結論付けられる問題ではない。戦後、優秀な官僚がけん引して高度成長を実現したというかつての主張は今や主流派ではない。だからといって、資本主義の徹底、つまり、強烈な競争が発展の要因かというとそういうわけでもなさそうだ。となると、どう考えればいいのだろうか・・・。


 
 話が逸れたが、そんな「アジア」について考える第一歩として、または観光に行くなら知っておこうと思ったとき、その基本知識が実にバランスよくまとめられている本書は秀作だと思う。



 
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