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 ハリエット・アン・ジェイコブズ 『ある奴隷少女に起こった出来事(堀越ゆき訳/新潮文庫、2017年)

 

 南北戦争が始まる前、アメリカ南部の奴隷制下での一人の女性の半生を綴った自伝。約150年前に筆名(リンダ・ブレント)で書かれたものが時を経て真実だと証明され、アメリカでベストセラーになっている。

 隙を見つけては関係を迫ってくる所有主の医師。夫と奴隷少女との関係を疑い、嫉妬から少女に厳しく当たるその妻。そんな夫婦のもとでの辛く苦しい日々。自由身分を手にするために白人男性との間に子供をつくるなど様々なことを実行するが、裏切りや現実の社会制度により思い通りにはいかない。

 ここで書かれているのは、タイトル通り、あくまで一人の女性の経験に過ぎない。しかも、典型的な奴隷の一生というよりは思考力や行動力のある奴隷の一生である。したがって、これだけで奴隷制の全てを分かったと勘違いするべきではない。しかし、それでも奴隷制の現実を実感を持って知ることができる。かつて奴隷制があって人間が公的にも人間としての扱いを受けなかった時代があったということを抽象的には知っている。しかし、特に、その奴隷の側から見た生活・人生がどのようなものであったかを知ることができるノンフィクションはそう多くはないのではないだろうか。そういう意味では本書は貴重かつ有意義な本だ。

 わずか150年前に今では考えられないことが公然と行われていた。しかも現在では民主主義・自由主義の代表のようなアメリカにおいて。

 逆に言えば、今ある自由や人権もあっけなく崩れ去ることがあり得る。「権利のための闘争」や「権利の上に眠る者」といったことの重要さを改めて感じる。歴史を学ぶ意義は、いかに現代が出来上がっているのか、そこまでにどのようなことがあったのかを知り、その中から、人間というものの本質や特性を知ることにあるのではないだろうか。本書は歴史の一事象にすぎない奴隷制を通して人間の本質まで考えさせる偉大な本だ。




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