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 原田マハ 『楽園のカンヴァス(新潮文庫、2014年)

 

 画家アンリ・ルソーの世に出回っていない作品の真偽をめぐって、ルソーをかつて研究していた日本人女性とMoMAのキュレーターであるアメリカ人男性がその見極めを競うことになった。

 その過程で名画「夢」に込められた想いやそれをめぐる物語が明らかになる。そこでは、ルソーが愛した女性ヤドヴィカや、ルソーを早くから評価していたピカソも登場する。さらに、名画に関わる人たちの様々な思惑。それらが絡み合い、絵画の魅力を深く味わいつつ、緊張感あるミステリーが展開していく。

 これはおもしろい。

 筆者の名を一気に世に広めた出世作となったのも納得できる。

 名画の背景にある物語を味わうという知的なおもしろさと、ミステリーとしてのドキドキわくわくがどちらも楽しめる。しかも、それぞれがとてもおもしろい。




 原田マハの作品は他のも色々読んでみようと思った。


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 松岡圭祐 『黄砂の籠城(上・下)(講談社文庫、2017年)

 

 義和団事件を事実を基に描いた小説。民族運動の炎が燃え盛っている清に取り残された列強11か国。足並みが揃わない彼らだが、そんな中、日本人駐在武官・柴五郎たち日本人が奮闘する。

 これは素晴らしい。

 列強から屈辱を受け、あるいは、苦しい生活への不満が募り、不合理であってもカタルシスを感じさせてくれるものへの熱狂的な支持が高まる。そうして知識も武器もないような者たちが、ただ感情だけで外国人へと敵意をむき出しにしてくる。そして、刀で拳銃を持った外国人へも躊躇うことなく突進してくる。その不合理ながらエネルギッシュでパワフルな義和団の描写は相当に恐怖を感じさせる。

 そして、それに立ち向かう公使館密集区域に閉じ込められた列強の公使や軍人たち。帝国主義の国際政治を反映したかのような自国の利益ばかり考えるものばかりで、義和団に対する危機感が弱い。そんな中、柴五郎ら日本人たちが、謙虚、忍耐、統率といういかにも日本人らしいやり方で奮闘する。

 時代の雰囲気を見事にとらえ、そのときの状況の緊張感を常に感じさせてくれる。それでいて、ミステリー的なおもしろさも兼ね備えている。上下巻にまたがるが、全く長さに冗長さを感じることはない。映画化必至だろうが、その際は是非ともドキュメンタリー的なリアルなものにしてほしいものだ。


 ちなみに、本書『黄砂の籠城』が日本側・列強側から義和団事件を描いているのに対して、『黄砂の進撃』(講談社文庫)は義和団・清の側から義和団事件を描いている。ただ、『進撃』の方は内容も薄く、掘り下げも浅いため、正直あまりおもしろくはない。


 

 

 NHKスペシャル取材班 『超常現象ーー科学者たちの挑戦(新潮文庫、2018年)

 

 NHKスペシャルの書籍化。「生まれ変わり」や「テレパシー」といった超常現象は非科学的と一笑に付されることが多いが、そういったものを科学的に研究している学者もいる。彼らを追ったり、自ら科学的に解明しようと試みたりすることで、超常現象と科学とのせめぎ合いの最前線を明らかにしようとしている。(とはいえ、超常現象に肯定的なものを取り上げている割合が高いが。)

 本書が出した結論は、超常現象の存在を科学的に証明したと言い切れるものはない。とはいえ、「ある」と思わざるを得ないようなものが確かにある。したがって、「わからない」、「どちらとも言えない」というもの。

 NHKが超常現象を取り上げるという挑戦には敬意を表したいけれど、ここまでしょうもない結論であるのなら、取り上げる意味が果たしてあったのか疑問だ。

 そして、全体的に、超常現象を無碍(むげ)に扱わないようにという配慮が、逆に超常現象側の主張へのチェックを緩めてしまっているように思う。子供がどっかの誰かのことを詳細に語るのを見て、なぜ「生まれ変わり」と考えるのか? このようなことが起こった場合、多くの人が言っているから「生まれ変わりだ」と考えているだけではないのだろうか? そのような「生まれ変わり仮説」を立てる理由は一体何なのだろうか? 仮説もそれなりの論理的な筋道の上に立てられるべきものであるはずだ。なのに、それが全く示されない。あるいは、乱数発生器が歪むのを見て、その原因を人々の意識・感情の集まりだと考えるのはなぜか? その仮説を立てた論理的な理由は全く出てこない。

 「宇宙人」といって思い浮かべる姿が、人間と基本的な構造を同じくしていたり、あるいは、かつての有名映画に出てくるものに影響されていたりという現象はよく指摘されることだ。

 同様に、不思議な現象を経験してそれが「生まれ変わり」や「テレパシー」だと考えること自体が、ただの先人たちの語ってきた内容に影響されているということではないだろうか? その、ただの文化的な非拘束性ではないというのを示すためにも仮説の論理的な理由が必要なのだ。

 実際、人間の意識や認識なんてそもそも相当に不正確ででたらめなものだ。チャブリス、シモンズ『錯覚の科学』(文春文庫)を読むとそれがよくわかる。本書は『錯覚の科学』に全く応えていない。

 本書の最後では超常現象を科学的に研究しているプットフ博士の言葉を引用している。「過去を振り返ってみてください。19世紀、18世紀、17世紀には分からなかったことを今の私たちがどのくらい知っているでしょうか。」p337)

 確かに、かつてあり得ないと思われていたことが真実だったということはいくつもあるだろう。しかし、その一方で、人間が(科学者さえも)いかにしょうもない俗説(医学的なことは特に多そうだ)をこれまでたくさん真に受けてきたかということにも思いをいたす必要があるだろう。



 


 原田マハ 『モダン(文春文庫、2018年)

 

 ニューヨーク近代美術館(MoMA)で働く人たちを描いた5篇の短編からなっている。

 世界のモダンアートの最先端を舞台にしているため、全編を通して都会的で洗練された印象が漂っている。とはいえ、ちょっと幻想的な話やちょっと心温まるような話もあり、その味付けが無機的な感じを与えない。

 登場する絵画は、アンドリュー・ワイエス「クリスティーナの世界」、ピカソ「アヴィニョンの娘たち」など。

 初めて原田マハの小説を読んだけれど、いろいろと人を惹きつけるモノや題材を描いているなと感じた。今回の小説であれば、憧れを抱く大都会ニューヨーク、高等な教養的な領域である美術、かっこよく働く女性といったものだ。憧れるけれど行ったことないとか、知っていて語れたらかっこいいなとか、心の中で密かに思っているものを描いているのだ。そのため、ちょっとその憧れていたものに触れられたような気持ちにしてくれる。

 他の作品も読んでみたくなった。そして、今後、ちょっとおしゃれな気分や高尚な気分になりたいときに手に取ろうと思った。



 佐藤優、杉山剛士 『埼玉県立浦和高校(講談社現代新書、2018年)

 

 作家の佐藤優が母校の浦和高校で生徒向けに行った講演、保護者向けに行った講演、現校長との対談が収録されている。

 今では、公立高校までもが東大合格者数や現役進学率を気にし、朝や放課後に補習を行ったり「夏期講習」を行ったりしている。(都立日比谷なんかまさにそう見える。)もちろん、それ自体悪いことではない。大学受験を全く考えずに各教師の好き勝手に授業されたのではたまらない。

 しかしながら、大学受験をあまりに絶対視しすぎ、それに向けてあまりに必死になりすぎてしまうと話は違ってくる。昨今の状況は残念ながらその域にまで達してしまっているように感じる。もちろん、それは一義的に高校に責任があるというわけではなく、「予備校的な高校」を求める「消費者」あってこその状況ではあるのだが。

 そんな時代環境の中、本書で語られている内容は、いわば「教養」の大事さである。社会においてどのような「学力」や「知力」が必要とされるかを筆者が自らの経験も交えて語っている。生徒から出てくる質問も「ゼネラリストとスペシャリスト」や「情報判断能力」や「文系と理系をわける意味」といった受験勉強の先に関わるようなものが多い。

 ここにあるのは、「余裕」、もしくは、「視野の広さ」だと思う。彼らとて大学受験がどうでもいいと思っているわけではない。しかし、それが全てと考えて必死になりすぎていない。それだけが唯一無二の価値基準だと思っていない。

 その余裕に器の大きさを感じる。そんな器の大きさを生かすべく、彼らが受験でも負けずに社会で活躍する人材となってくれることを願わずにいられない。



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