by ST25
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松本清張 『点と線』 (新潮文庫、1971年)
時刻表が大きな役割を果たしていた時代の、時刻表を巧みに用いたミステリー。その巧みさは文学的ですらある。
そして、登場人物が背負っている社会的な背景(役人の汚職など)を通して、その時代や社会をも描けていて、いかにも松本清張らしい。トリックを明かして終わりというミステリーとは一線を画している。
それだけに、時代の暗さ・重さはあるが、それが読みごたえを生んでいる。
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桐光学園、ちくまプリマー新書編集部・編 『続・中学生からの大学講義2 歴史の読みかた』 (ちくまプリマー新書、2018年)
本のタイトルは「歴史の読みかた」になっているけれど、講義がそういうテーマで行われているわけではない。それぞれが自身の研究分野に関することを話している。そして、中学生向けということで、内容も理解しやすいものになっている。(ただ、さすがに中学生にとっては難しすぎないだろうかという気がする。高校生以上ならいけそうだが。)
各人20ページ分くらいの内容だから、色々興味を持って色々なものを読んできた大人からすると目新しいものはそれほどないけれど、一流の研究者たちの考えていることのエッセンスには触れられる。
ところで、今回この本を手に取ったのは、福嶋亮大がいたからだ。
本書の錚々たる研究者たち(重鎮といってもいい)の中には2人だけ若い研究者がいる。1977年生まれの白井聡と1981年生まれの福嶋亮大だ。白井聡は『永続敗戦論』など著名な作品を出版していて名が知れているからわかる。しかし、福嶋亮大の方は正直、ヒットした代表作があるわけではなく、多くの人は「誰だこれ?」状態だろう。
しかし、個人的には以前から注目している研究者だ。きっかけは何かの雑誌に載っていた作家の中村文則に関する評論。(中村文則こそ村上春樹の次の日本人ノーベル文学賞候補だと確信している。)それを読んだとき、今後、福嶋亮大を追い続けようと決めた。そうして、ついに(確か)初の単著『神話が考える』が出版された。期待して読み始めた。が、読んで愕然とした。全くもって意味不明なのだ。初めから読み直すことを何回か試みたが、やはり内容が理解できず、結局途中までで放り投げた。それ以来、ちょっと距離を置き、視界の片隅に留めておくくらいの状態が続いた。そして、今回の本書で久しぶりに相対した。その結果、内容は分かりやすいし、「観客の重要性」という独創的な視点を提示していて、力量を再確認できた。この間に出版されていた単著を読んでみようという気持ちになった。
それにしても、この錚々たるメンバーの中に福嶋亮大を入れた編集者たちの慧眼には拍手を送りたい。
原田マハ 『暗幕のゲルニカ』 (新潮文庫、2018年)
ピカソが生きた1930年~40年代のパリと、2000年代初頭のニューヨークの2つの時代の話が並行して進んでいく。
ピカソが生きた時代は、スペインでは内戦とその後のフランコ独裁があり、パリではナチス・ドイツによるパリ侵攻があった。そして、2000年代初頭のアメリカでは同時多発テロとイラク戦争があった。
そんな戦争や対立の時代における「ゲルニカ」をめぐる物語が展開されていく。
ずばり言うなら、『楽園のカンヴァス』の方が相当おもしろかった。『暗幕のゲルニカ』もおもしろいにはおもしろいが、どうしても『楽園』の方を基準にして期待値が形成されていたため、その期待値からの乖離はいかんともしがたかった。
この『暗幕』を残念なものにしてしまっている一つの要因は「ゲルニカ」あるいは「戦争」の理解・解釈の浅さだと思う。
話の中で、ピカソが「ゲルニカ」に込めたのは、フランコによるゲルニカ空爆に対する批判にとどまらず、戦争というもの全てに対してなんだ、というものが出てくる。そして、それがあたかも「新しい斬新な解釈!どうや!」てな感じで描かれる。
「ピカソが、私たちが戦っている敵はーー「戦争」そのものなんだ。
私たちの戦い。それは、この世界から戦争という名の暴力が、悪の連鎖がなくなる日まで続くんだよーー。」(p284)
人類がほとんど有史以来といって良いほど苦しみ向き合ってきた「戦争」というものに対する理解・解釈がとても浅いのだ。ただ「戦争=悪」だから「なくせ!」ということしか言っていない。小中学生レベルのあまりに純粋すぎる理解だ。したがって、あたかも、純粋な小中学生が書いた「戦争では何の解決にもならないし、むしろ悲しみや憎しみしか生まないから、戦争なんかするべきではない。」といったレベルのものを読まされているような気がしてしまうのだ。
「主な参考文献」として同時多発テロやイラク戦争に関するものも何冊かあがっているが、「戦争」という壮大なテーマを扱うにしては質・量ともに浅薄と言わざるを得ない。具体的に言うと、事実を確認するための数冊と、サイードの『戦争とプロパガンダ』があがっているだけだ。もちろん、これは「主な参考文献」であり、他にも読んだのであろうが、「戦争」というものやその原因をどう捉えるのかに関するものが1冊だけでは心もとない。
美術をメインに扱った本に対してあまりに高い要求をしているかもしれないが、「戦争」とはそこまで深くて困難なテーマなのだ。
そして何より、「戦争」に対するこの浅い描写が、筆者が「戦争」をそこまで深刻な問題として捉え、向き合っていないということを図らずも明らかにしてしまっているのが何とも残念だ。
朝井リョウ 『武道館』 (文春文庫、2018年)
グループであるだけに、恋愛に関して様々なスタンスのメンバーがいる。主人公の愛子は割とまじめなメンバーだが、小さい頃からとても仲の良い幼馴染の男の子がいる。
グループが徐々に世間に売れていくのと並行して、愛子と幼馴染の男の子も大人へと成長していく・・・
話の筋としては実にありきたりで驚くような展開はない。
したがって、アイドルの心の葛藤が中心となる。その深さやリアリティが大事なところだが、そこがとても浅いし、無理がある。
以下、本書の肝ではあるが、立ち入って書いていく。
幼馴染との恋愛が週刊誌に掲載されると知った愛子は心の中で言う、
「矛盾すべき二つの自分が、どちらも本当の自分だと知っているからだ。歌って踊ることが好きな自分も、好きな人がいてその人の体に触れることが好きな自分も、どちらも本当の自分だということを知っている。」(P329)
恐ろしいことに、自身の行動の判断基準(あるいは是か非かの基準)は自らの感情のみなのだ。自分のために働いてくれている事務所やレコード会社の大人たち(彼らにも生活や家庭がある)。様々なものを犠牲にして売れようと必死に活動している他のメンバー。そういったものへと思考が至ることがないのだ。主人公の愛子は究極の自己中人間なのか? あるいは、サイコパスなのだろうか? これではアイドルと恋愛を扱った小説としては、心の葛藤の描写が浅すぎる。
また、本書では「選択」を軸にその行動(アイドルの恋愛)を正当化している。本書の中でアイドルが言っている。(P323-326) 要約すると以下のようになる。
アイドルが恋愛へと一歩踏み出すのも自己の「選択」によるものだ。しかし、「選択」するその瞬間においては「正しい選択」・「間違っている選択」なんてものはない。あるのは(後から振り返っての)「正しかった選択」だけだ。だから、この「(恋愛するという)選択」をこれからの行動で「正しかった選択」にしていけば良い、と。
いろいろ問題がある。
まず第一に、「正しい/間違った選択がない」と言うことで、「(恋愛する/しないの)選択」を行ったはずの自己の責任をあいまいにしている。主人公の愛子は恋愛をすることに対してのやましさや罪悪感を感じている。であるならば、「アイドルとしての自分」と「幼馴染と性的関係をもつ自分」という矛盾(そして、それは事務所の大人や他のメンバーに大きな影響を与える)に何らの対処・解決もせずに行った「選択」であり、無責任で正しくない選択だと言えるのではないだろうか。少なくとも、様々なことに思いを致すことなく行われた「不十分な選択」「誠実ではない選択」と言えるのではないだろうか。それを「正しい選択なんてない」の一言で済ませるのは、問題から逃げているだけだ。
それから、「後々、正しかった選択にすればいい」と言うが、(現在の自分を肯定せずには生きていけない)人間という生き物には自己の来歴を正当化する強い傾向がある。自分の選択を間違っていたとすることは稀だ。であるならば、他人に迷惑をかけたような行動であっても、本人が判断する以上、「正しかった選択」として肯定されることになる、と誰もが思うだろう。また、そもそもいつの段階で「正しかった選択」かを判断するのかに言及されていないため、ただの、問題の先延ばしにしか思えない。
このように、描写は浅く、恋愛するアイドルを肯定するにしては正当化の仕方が弱く、説得力に欠ける小説だと思う。
ただ、一人ストイックにアイドル業に励んでいる「るりか」の健気さは感動的だった。何かを犠牲にし、我慢し、自ら選んだ道を突き進む者こそ応援したくなるものだ。
大崎梢 『だいじな本のみつけ方』 (光文社文庫、2017年)
1つ目の「だいじな本のみつけ方」は、人気作家を取り巻く中学生や書店員などの話が書かれている。深い感動や衝撃の展開があるわけではないけれど、読み物としてよく書かれていてすいすいと読み進められる。
2つ目の「だいじな未来のみつけ方」は、本の読み聞かせをめぐる物語。テレビの司会者やアナウンサーなんかもそうだけれど、普通に話しているように見えてあのように自然に聞きやすく話すのには技術がいる。読み聞かせも、上手な人がすると本の魅力をより引き立たせてくれるだろう。そんなことを考えながら読み進めた。それだけに、ただの中学生が読み聞かせて果たして本の魅力は伝わるのだろうかと少し疑問に思った。
連作短編のように2篇とも同じ世界を描いている。主人公の中学生はちょっと幼く感じるくらいな女の子。童話に出てきそうな無垢な感じ。
そんなわけでちょっと童話みたいな世界観の物語。暇があれば読んでもみてもいいかなって感じ。