by ST25
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原田マハ 『暗幕のゲルニカ』 (新潮文庫、2018年)
ピカソが生きた1930年~40年代のパリと、2000年代初頭のニューヨークの2つの時代の話が並行して進んでいく。
ピカソが生きた時代は、スペインでは内戦とその後のフランコ独裁があり、パリではナチス・ドイツによるパリ侵攻があった。そして、2000年代初頭のアメリカでは同時多発テロとイラク戦争があった。
そんな戦争や対立の時代における「ゲルニカ」をめぐる物語が展開されていく。
ずばり言うなら、『楽園のカンヴァス』の方が相当おもしろかった。『暗幕のゲルニカ』もおもしろいにはおもしろいが、どうしても『楽園』の方を基準にして期待値が形成されていたため、その期待値からの乖離はいかんともしがたかった。
この『暗幕』を残念なものにしてしまっている一つの要因は「ゲルニカ」あるいは「戦争」の理解・解釈の浅さだと思う。
話の中で、ピカソが「ゲルニカ」に込めたのは、フランコによるゲルニカ空爆に対する批判にとどまらず、戦争というもの全てに対してなんだ、というものが出てくる。そして、それがあたかも「新しい斬新な解釈!どうや!」てな感じで描かれる。
「ピカソが、私たちが戦っている敵はーー「戦争」そのものなんだ。
私たちの戦い。それは、この世界から戦争という名の暴力が、悪の連鎖がなくなる日まで続くんだよーー。」(p284)
人類がほとんど有史以来といって良いほど苦しみ向き合ってきた「戦争」というものに対する理解・解釈がとても浅いのだ。ただ「戦争=悪」だから「なくせ!」ということしか言っていない。小中学生レベルのあまりに純粋すぎる理解だ。したがって、あたかも、純粋な小中学生が書いた「戦争では何の解決にもならないし、むしろ悲しみや憎しみしか生まないから、戦争なんかするべきではない。」といったレベルのものを読まされているような気がしてしまうのだ。
「主な参考文献」として同時多発テロやイラク戦争に関するものも何冊かあがっているが、「戦争」という壮大なテーマを扱うにしては質・量ともに浅薄と言わざるを得ない。具体的に言うと、事実を確認するための数冊と、サイードの『戦争とプロパガンダ』があがっているだけだ。もちろん、これは「主な参考文献」であり、他にも読んだのであろうが、「戦争」というものやその原因をどう捉えるのかに関するものが1冊だけでは心もとない。
美術をメインに扱った本に対してあまりに高い要求をしているかもしれないが、「戦争」とはそこまで深くて困難なテーマなのだ。
そして何より、「戦争」に対するこの浅い描写が、筆者が「戦争」をそこまで深刻な問題として捉え、向き合っていないということを図らずも明らかにしてしまっているのが何とも残念だ。
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