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 貴志祐介 『悪の教典(上・下)(文春文庫、2012年)


 『新世界より』の濃密で創造的な物語に感銘を受けた作者による小説。

 鋭い知能を持ち、生徒からの人気も高いが、感情を全く持たないという欠陥を抱える高校教師が引き起こす猟奇殺人を描いたミステリー。

 上巻では、ハーレムの建設と思われる「目的」を達成すべく、着々と冷酷かつ綿密に人を殺していく様が描かれている。 そのため、考えこまれたトリック、魅力的な主人公のキャラクター、そして築き上げようとしている世界はどんな世界なのだろうというワクワク感、そういったものが詰め込まれていてとても楽しく読めた。

 それが、下巻になると、あそこまで完全無欠だった主人公が急にちょくちょく隙を見せるようになり、それがため悪循環に陥り、ついに学校で大量殺人をせざるを得ない状況に追い込まれる。 そして、次々と生徒たちを殺していくのだが、そのやり方も前半の緻密さとは打って変わった行き当たりばったりのものが多くなる。 前半の関心事の一つだった「目的」がそもそも何なのかについてもほとんど書かれることなく終わってしまう。


 前半がおもしろかっただけに、尻すぼみになってしまっているのが残念だった。 とはいえ、後半も他の作者の小説と比べると十分におもしろかったとは思う。 ただ、やはり、もっと長くなってもいいから前半の丁寧さを最後まで続けてほしかった。 




 

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 村上春樹 『1Q84 〈BOOK1~3〉(新潮文庫、2012年)


 単行本出版当初、内容も大して明らかになっていないし、当然評判も何もなかったのにやたらと売れに売れた小説。 いくらノーベル文学賞に一番近い日本人と言われ、一般にも人気がある作家とはいえ、あの熱狂は一体何だったのだろうか。 あの時、真っ先に手に入れた人たちはちゃんと読んだのだろうか。(それなら何の文句もないけど、その人たちの半分も読んでないと思うとなんかなぁ・・・。)


 さて、村上春樹も好きでオーウェルの『1984年』も大好きだから、とても期待して読み始めた。

 「1984年」の現実の世界に生きていた主人公たちが、不思議な少女が書いた小説の世界「1Q84年」に入り込んでしまう。 その「1Q84年」の世界では、オーウェルの小説に描かれた「ビッグブラザー」なんていうものは誰もが警戒してしまって存在に効果はない。 しかし、それに代わって、「リトルピープル」なるものが幅を利かせている。 

 なんていう話が語られ(BOOK1後編p193)、かつてのスターリンのような一人の独裁者による全体主義のシステムはもはや過去の遺物となり、代わりに個々の一人一人が群衆になることで独裁者のような威力を発揮するポピュリズムの話であるかと匂わせる。

 そして、そのリトルピープルが出てくる「1Q84年」がもともと小説の世界であり、現実の世界とは別の世界であることへの注意が払われる。(BOOK1後編p356) まさに、権力をもった大衆がその暴力的な感情的な力を発揮するとき、その被害者(被告人)となる対象は自分たちが生きる世界や自分たち自身とは別の世界や人間であるかのように傍若無人に振る舞うこととの関連性を伺わせる。

 さらに、物語が進行していく中で『カラマーゾフの兄弟』が持ち出され、「善悪は絶対的なものではなく、時や場所により変動する」ことが言われる。(BOOK2前編p312) 感情的になった大衆が悪者として祭り上げ懲らしめた悪者や悪事も、いつの間にか、あるいは、もっと楽しげな出来事をきっかけに、すっかり忘れられ何事もなかったようになることが多々ある。

 と、長い小説のこれからの展開に期待しながら読んでいたら、だんだん、主人公の男と女が数々の優秀な邪魔者たちをくぐり抜け、いかに久しぶりの再会を成し遂げるか、というただのミステリーに堕していってしまった。 ただ惰性だけで( かなり興味を失ってもとりあえず話は追わせる筆力はさすがはノーベル賞に近い作家だ )最後まで読んだが、やはり何の展開も解決も深まりもなくあっさり終わってしまった。

 そんなわけで、期待はずれなただのミステリー小説だった。


 

 仲谷明香 『非選抜アイドル(小学館101新書、2012年)

 

 今を時めくAKB48のメンバーでありながら、選抜総選挙では41位以下の圏外で、CDの選抜メンバーにも選ばれたことがないアイドルが「非選抜アイドル」としての自分の存在意義や心持ちを綴った本。

 学校や日常生活では無気力。声優という夢だけは持っていた。しかし、兄弟とともに母に育てられ、経済的理由で声優養成所を辞めざるを得なくなるという苦しみを味わうこともあった。そんな中、前田敦子と同級生だったことでAKBや芸能界を近くに感じることができ芸能界への敷居をまたぐことになった。


 そうして入った芸能界で、「選抜」にもなれなかった。そんな中での彼女の姿勢はこのようなものだった。

 特に私は、もともとかわいいというわけでもないので、努力をしなければ人気を得られないのは明らかだったが、しかしそれでも、どうしてもそれに真っ直ぐ取り組むことができなかった。私には、一面にはとても頑固なところがあって、やらなければならないことでも、心がその気にならなければどうしてもやることができないのだ。」(p62)


 私のもう一つの性質として「何事も引きずらない」というのがある。何か嫌なことがあっても、しばらく経つと忘れてしまうのだ。例えば人気獲得といった「どうしてもできないこと」があると、「できないものはしょうがない」と、すぐに諦めてしまうのだ。このことと頑固さの同居しているところが、我ながら不思議なのだが、こればっかりは生まれ持った性質で、努力してこうなったのでもなければ、変えようと思ってもなかなか変えられないところだった。(p86)

 そんなこんなで、劇場公演での「便利屋」として働き、声優の仕事もいくつかもらえるようになった。



 迷惑がかかったりして難しいのかもしれないけれど、もう少し具体的なエピソードを書いてほしかった。メンバーの個人名もあまり書いてないのだけど、具体性がほしかった。
 
 

 太田光 『マボロシの鳥(新潮社、2010年)


 爆笑問題の太田光が書いた最初の小説。

 舞台や登場人物は全く異なるけれど、ファンタジックな世界や、そこでの出来事を通して伝えたいメッセージは共通している9つの短篇からなっている。

 伝えたいメッセージのあまりの純粋さはいかにも太田光らしい。「世界は繋がっている」とか「神様を超えるもの」とか「本当の愛」とか。

 それが、凡庸さとなっている面もあるけれど、そのありきたりのことを伝えるために創られた9つの話は、それぞれが自由で豊かな想像力に裏付けられた、小説的な面白みに満ちていて、同じ作者とは思えないくらい多様で楽しめるものになっている。

 本格的なメッセージ性を求めるなら純文学を読めばよいし、小説ならではの想像力をもっと追求したければハードSFを読めばよい。けれど、ドストエフスキーだとか大江健三郎だとか野間宏だとかは気軽に手には取れない。イーガンだとかベスターだとかもなかなか手ごわそう。

 そんな人やそんな気分の時にちょうどいいのがこの小説だと思う。



 

 

 梨木香歩 『家守綺譚(新潮文庫、2006年)


 家主の替わりに家を守ることになった物書きの男を取り巻く、のどかで豊かな自然にまつわる、とっても奇妙な出来事を静かに描いている短編集。

 心をもったサルスベリ、屏風から出てくる今は亡き旧友、人をだます狐狸、カッパなどなど、ファンタジックなものがたくさん出てくる。けれど、それらが実に見事に溶け込んだ世界を創り上げることに成功している。

 そこで描かれる山村は、現実離れしているけれど、日本人に「故郷」や「懐かしさ」を思い起こすようなほのぼのした田舎の風景になっていて、読んでいるととても心地良い。

 人の持つ想像力の豊かさ、フィクションである小説のおもしろさを味わうことができる秀逸な作品だった。



 

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