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 貴志祐介 『悪の教典(上・下)(文春文庫、2012年)


 『新世界より』の濃密で創造的な物語に感銘を受けた作者による小説。

 鋭い知能を持ち、生徒からの人気も高いが、感情を全く持たないという欠陥を抱える高校教師が引き起こす猟奇殺人を描いたミステリー。

 上巻では、ハーレムの建設と思われる「目的」を達成すべく、着々と冷酷かつ綿密に人を殺していく様が描かれている。 そのため、考えこまれたトリック、魅力的な主人公のキャラクター、そして築き上げようとしている世界はどんな世界なのだろうというワクワク感、そういったものが詰め込まれていてとても楽しく読めた。

 それが、下巻になると、あそこまで完全無欠だった主人公が急にちょくちょく隙を見せるようになり、それがため悪循環に陥り、ついに学校で大量殺人をせざるを得ない状況に追い込まれる。 そして、次々と生徒たちを殺していくのだが、そのやり方も前半の緻密さとは打って変わった行き当たりばったりのものが多くなる。 前半の関心事の一つだった「目的」がそもそも何なのかについてもほとんど書かれることなく終わってしまう。


 前半がおもしろかっただけに、尻すぼみになってしまっているのが残念だった。 とはいえ、後半も他の作者の小説と比べると十分におもしろかったとは思う。 ただ、やはり、もっと長くなってもいいから前半の丁寧さを最後まで続けてほしかった。 




 

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