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 中村文則 『迷宮(新潮文庫、2015年)

 

 自分以外の他の家族が皆殺しにされるという猟奇的な殺人事件に巻き込まれながらも生き残った女性。その女性と関わりをもった主人公がその事件に引き付けられ真相を探っていく。

 ミステリー的なストーリー性もありつつ、人間の心の奥底に眠る闇にも迫る文学的な小説で、とてもおもしろい。

 世にストーカー事件がはびこっていることからもわかるとおり、人間は偏執的な感情を抱くことが間々あり、それは往々にして歯止めがきかず精神的にほとんど壊れてしまったかのような状態にまでなる。

 この小説に出てくる殺人事件の被害者たちはまさにそんな人たちだ。彼らはもちろん一面では加害者でもある。その彼らによる被害を受けたのが生き残った女性だ。女性は狂気に囲まれた鬱屈した状況から脱走するべく「狂気」を自ら招き入れるという選択をする。

 そんな奥底に狂気を秘めた女性に引かれたのが、かつて自らの中に「R」という狂気な人格を持っていた主人公の男性だった。

 この辺の踏み込みは200頁ほどのこの小説ではそこまで深くなく、全体的にも表面的な出来事中心に話は進んでいくけれど、スムーズに読み進められるのはその背景となる人物描写に説得力があるからだろうと思う。

 人間の内面にあまり踏み込まない小説が多い中、孤軍奮闘する中村文則の作品は全制覇したいところだ。



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 杉山奈津子 『[精選版]偏差値29からの東大合格法(中公新書ラクレ、2014年)

 

 今から10年以上前の筆者の経験を書いている本。

 古いし、自分の体験を絶対化しているし、タイトルから受ける印象にとって不利になる情報は極力隠しているし、参考にすべきではないことの方が多そうな本。



 とかく教育に関する問題は、皆が自己の体験があるだけに、皆がさも専門家であるかのように語り始める。しかもその内容は自己の体験を肯定的に捉えていればそれが唯一の正解であるかのように、自己の体験を否定的に捉えていればそれが絶対にやってはいけない誤った道であるかのうに。

 中教審の審議内容もそんな色が濃厚だ。

 困ったものだ。

 

 山形浩生、岡田斗司夫FREEex 『「お金」って何だろう?(光文社新書、2014年)

 

 「お金」についての山形浩生と岡田斗司夫の対談本。

 となると、経済素人の岡田斗司夫がいろいろ素朴な質問をぶつけ、山形浩生がそれに答えながら「お金」について解き明かしていく本なんだろうと漠然と思いながら読み始めた。

 第1章、第2章くらいはユーロの欠点や貨幣を発行する権限を国家が持つことの意義とか、「お金」を根本から考え直すような話でフムフムと読み進めた。

 が、第2章の途中あたりから漠然と感じていた岡田の「評価経済」推しが、第3章で完全に前面に押し出されてくる。ここでは、岡田が一方的に自分の考え(かなり現実性に乏しい)を話し、それに対して山形が大人な当たり障りのない返答をするという形式になる。当初期待していた内容は見事に悪い意味で裏切られてしまった。

 そして、第4章。ただ単に岡田が行っているパトロン制の宣伝だ。合点がいった。全てはこのためだったのだと。

 第5章は格差の話。格差が拡大することで、(1)高額商品が売れなくなってくる、(2)低所得層があきらめてしまって頑張ってもしょうがないと思うようになり経済全体の低迷につながる、といった格差の弊害の話は興味深かった。



 この本によって岡田斗司夫の本は自らの宣伝のために書いている可能性があるという「評価」がなされる気がするけれど、果たしてそれでいいのだろうか?




 伊藤計劃 『ハーモニー [新版](ハヤカワ文庫、2014年)

 

 デビュー作の『虐殺機関』が、色々な本の継ぎはぎすぎて知識をひけらかしてるだけでイマイチだと思っていたら意外にも世間では高評価を得ていて、「なんだよっ・・・」と思ってそれ以来読んでいなかった作者のSF小説。

 「大災禍」の後、他者への思いやりに溢れ、健康状態を全て監視し病気になることもない、そんな「ユートピア」を築き上げた人類。感情も健康も自然任せにせず、全てを人工的に管理する。そんな「生府」がコントロールする世界で、その状態に満足できない少女がその世界を破壊しようと試みる。

 常日頃、何の疑いもなく正しいと信じられている価値(優しさ、健康など)を徹底することで生じるユートピアではない「ディストピア」。本の中でも出てくる『すばらしき新世界』やミシェル・フーコーといった先達たちの遺産を受け継ぎつつも、脳科学の知見などを用いた独自の哲学的洞察も垣間見ることができる。人間にとって根本となる人間性とは何か?

 物語としてのおもしろさと哲学的・SF的洞察のおもしろさが二重に重なりつつ読み進められる読み応えのあるSF小説だった。

 増田寛也編 『地方消滅(中公新書、2014年)

 

 1億2000万。人口は減っていくと言われてはいるけれど、この馴染み深い数字が相も変わらずに保たれている現状では、人口減少を現実感を伴って感じることはなかなか難しい。

 だが、それはあくまで今までの話であって、これからは感覚的には「急激に」人口は減っていく。2050年、今から35年も経てば日本の人口は9700万人になっている。となれば、1億2000万という数字が崩れ、1億1000万になる日はそう遠くはない。

 と、考えていくとなかなかに恐ろしい時代に突入していくことになりそうだ。そんな時代を象徴するかのような事態が、子供が減り高齢者が増える少子高齢化に止まらず、高齢者までもが減っていくという事態だ。そうなれば、ついには「地方消滅」という言葉さえリアルなものとして恐ろしくも迫ってくる。

 そんな、(特に都市部の人間には)聞いたことはあってもいまいち危機感に迫られない人口減少という問題をこの本は重要な問題としてリアルに感じさせてくれる。

 最後に各区市町村の2040年の人口予測が掲載されている。これもなかなか実感を伴って問題の大きさを理解させてくれる。例えば、大都会・東京であっても、杉並区は2010年約55万人である人口が2040年には約47万人とおよそ8万人も減る予測になっている。となると、地方では人口1万人を下回りそうな自治体が続出することになる。


 ちなみに、現状分析の後には人口減少に対して講じられるべき施策も書かれている。ただ、おおざっぱだったり、列挙しているだけだったりで、政府の白書のような書きっぷりでいまいち処方箋としては弱いと感じる。もちろん、紙幅の都合もあるだろうけれど。

 とはいえ、問題意識を共有するという第一段階に関しては成功していると思うし、元岩手県知事の増田氏と日本総研の藻谷氏の対談はなかなかすっきりと問題や対策の根幹がまとまっていて参考になる。


 今までと同じ状態が続くだろうと安易に考えてしまう「1億2000万人」で育ってきた大人たちこそ今後に起こることを正面から受け止めないといけないのだろう。



 
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