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by ST25
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 小川糸 『ツバキ文具店(幻冬舎文庫、2018年)

 
 鎌倉で文具店兼代書屋を営む女性を主人公にした物語。

 代書屋とは、手紙を代わりに書く仕事。紙、筆記具、字体、内容を依頼主の人柄や気持ちを踏まえて決めていく。友人との絶交の手紙、借金の依頼への断りの手紙、死んだ先代への手紙などが書かれている。

 そして、歴史を感じさせる鎌倉の町での、ご近所さん達との関わりも話に温かみを与えている。


 話はそれなりにおもしろく、それなりに楽しめる。


 ただ、ほしおさなえ『活版印刷 三日月堂』(ポプラ文庫)と似ていることが気になった。活版印刷に対して代書、川越に対して鎌倉、そして、近所の人たちとの関わり。

 どちらも2016年に出版されているから、どっちが先なのかはよくわからない。



 いずれにしても、個人的には『活版印刷 三日月堂』の方がおもしろかった。



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 新井紀子 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち(東洋経済新報社、2018年)

 
 話題になった本。帯によると「28万部突破!」とのこと。そのうち何人が最後まで読んだのかは知らない。

 著者は数学者で、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトに関わっている。(そこでつくられているAIは「東ロボくん」と呼ばれている。)

 前半は「AIとは何か?」を、そのしくみから解き明かし、その可能性と限界とをどちらも書いている。

 後半では全国読解力調査から分かった「教科書が読めない子どもたち」についての問題を書いている。
 

 前半についての大きな疑問は2つ。

 1つ目。「MARCH合格」について。東ロボくんが“MARCH”に合格できるレベルの偏差値を模試でたたき出したことを猛烈にアピールしている。第1章のタイトルもまさに「MARCHに合格」となっている。果たしてその通りなのだろうか? 該当する記述がどうなっているか見てみよう。

 「初めて”受験”した2013年の代々木ゼミナールの『第1回センター模試』では、(中略)偏差値が45でした。ところが3年後の2016年に受験したセンター模試『2016年度 進研模試 総合学力マーク模試・6月』では、(中略)偏差値は57.1まで上昇しました。」p21)

 一見、どちらも「センター模試」を受けているように見えるが、最初は代ゼミ、3年後のは進研模試と変わっているのだ。これの意味するところは受験をまともにしたことのある若者には一目瞭然だろう。何かというと、進研模試は圧倒的に偏差値が出やすいのだ。(受験層のレベルのせいだろう。) その両者を無批判に比較するなんて、はっきり言えば、科学者失格レベルだ。

 そして、代ゼミの模試ならば現実味のある、「偏差値57でのMARCH合格」も、進研模試なら要確認レベルの微妙な(というか、一見怪しげな)数字だ。

 まず先に、偏差値57でMARCHに合格できると言っている著者の記述から確認してみよう。

 「偏差値57.1が何を意味するのか、合否判定でご説明します。(中略)私立大学は584校あります。短期大学は含みません。そのうち512大学の1343学部2993学科で合格可能性80%です。学部や学科は内緒ですけれど、中にはMARCHや関関同立といった首都圏や関西の難関私立大学の一部の学科も含まれていました。両拳を突き上げたくなるレベルです。」p21-22)

 さんざん東大だのMARCHだの具体的な大学名を出しておきながら、急に「学部や学科は内緒ですけれど」の胡散臭さたるや相当なものだ。

 ということで、調べてみた。東ロボくんが受けた「進研模試 総合学力マーク模試・6月」の判定基準だ。残念ながら2020年度入試用しか見つからなかったが、3年のブランクであり、そう大きくは変動していないだろう。

 MARCHの最も数値が低い学科(と参考に最も高い学科)を挙げてみよう。(以下は全て合格可能性80%の偏差値。)

 青山学院大学:理工学部 電気電子工学科(全学部)など→68
        国際政経学部 国際政治学科(センター)→80
 中央大学  :文学部 人文学科中国言(英語検定)→66
        法学部 法律学科(センター)→83
 法政大学  :理工学部 応用情報工学科(英外部)→66
        グローバル教養学部(センターB)→80
 明治大学  :文学部 文学科(演劇)→69
        政治経済学部 政治学科(センター)など→80
 立教大学  :文学部 キリスト教学科(センター6科)→67
        経営学部 経営学科(センター3科)→82

 ご覧の通り、進研模試の偏差値57でMARCH合格がいかに非現実的かがわかるだろう。

 では、なぜ筆者はそんなことを言っているのか? 可能性としては3つ。①ただのミス。②ただのウソ(誇張)。③配点の妙で、全体では偏差値57だったけど、科目の取り方によって偏差値66になった。

 どれなのかはわからないが、少なくとも「AIがMARCH合格」を大々的に喧伝するレベルではないだろう。そして、それを言ってしまうのは科学者としての誠実さに欠けるという誹りは免れないのではないだろうか。(学部・学科を秘密にせずに言ってくれてればもっと確かめようもあったのに。)


 続いて、2つ目の疑問。AIが仕事を奪うという主張について。

 筆者は東ロボくんがセンター試験で上位20%に入ったから、東ロボくんに負けた80%の子どもたちは仕事を奪われると主張している。(p62、p272)

 ペーパーテストの偏差値と仕事の能力はそんな単純な関係だろうか。受験勉強で身につけたものが直接的に仕事に関わってくることがどれだけあるだろうか。

 以上が、本書の前半部についての根幹にかかわる疑問だ。



 では、後半(教科書が読めない子どもたち)についてはどうだろうか。

 読解力が大事。これには賛同する。英語なんかより読解力。これも賛成。

 それにしても、筆者は教科書をやたらと大事なものかのように書いているが、果たしてそうだろうか。

 「教科書なんて、分かりにくいし、情報も不十分だから大して使わない」ということが多いのではないだろうか。高校の教科書なんて特に。大学受験を「高校の教科書だけで乗り切りました!」なんて人が1人でもいるだろうか。みな、市販の参考書や問題集を使っていないだろうか。学校の先生でさえ、自作のプリントを主に使ったりしているのではないだろうか。

 だいたい、そんなに読み間違えられる教科書を出している出版社・教科書の著者はどう思っているのだろうか。



 さて、そんなわけで、本書は、センセーショナルなタイトルと内容で危機感を煽るが、全面的には到底受け入れがたいものだ。数年に一度、この種のものが出る印象がある。(分数ができない大学生とか。)そんなものが教育政策・教育行政をゆがめることのないように願うばかりだ。
 
 

 半藤一利 『戦う石橋湛山(ちくま文庫、2019年)

 
 石橋湛山は、戦後、首相を務めるも病気により2カ月で辞職を余儀なくされた。そのため存在感の薄い首相となってしまっている。

 しかし、石橋湛山の真価は戦後の政治家としての仕事ではなく、戦中の勇敢かつ慧眼に基づく言論活動にある。絶対権力を有していた軍部の大日本主義を批判し、一貫して小日本主義を主張した。しかも、その主張は冷静でプラクティカルな思考に基礎を置いている。

 本書は1995年に書かれたものの「新装版」の文庫化だ。筆者はもともと「戦前の日本ジャーナリズム」を書くことを意図していたため、石橋湛山の生涯を追ったものではない。しかし、それでも石橋湛山の最も熱い時期の活動は生き生きと描かれている。



 大勢の意見は時として王を打倒し、民主主義を導入させ、華々しい進化をもたらす。しかし、大勢の意見が常に正しいとは限らない。それは逆に独裁者を賛美し、大虐殺を肯定し、悲惨かつ無意味な戦争を引き起こしたりもする。

 「時代の空気」や「メディアによる煽動」に流されることなく冷静な思考と謙虚な研鑽(学び)を実践できる「石橋湛山」たりたいものだ。


 曽我謙悟 『日本の地方政府(中公新書、2019年)

 
【概要】
 地方公共団体を1つの政治主体である「地方政府」ととらえ、その様々な側面を包括的に分析・説明している。地方政府内のしくみから、選挙制度、地方政府間の関係や中央政府との関係などだ。いわば、地方公共団体を政治学的にとらえた教科書的な本だと言える。

【著者】
 著者は行政学や現代日本政治を専門とする政治学者。代表作は『ゲームとしての官僚制』。この著書からもわかるとおり、数学を使うなどする科学的な政治学を志向する。この学問的姿勢が本書を客観的なものにしている。

【意義】
 上記の通りではあるが、まず何より、客観的な記述・分析が貫かれているところだ。地方自治の分野は政治学に比べると科学的な志向性が弱い傾向にある。したがって、中央政府を批判して地方自治体を無批判に称賛・擁護するものも多い。あるいは、地方自治体への批判的な考察が弱いものが多い。その点、学問的な誠実性のある本書は、地方自治について知りたい人向けの入門書として信頼できる。

 教科書的な本とは言え、平凡な切り口で網羅的に語っているわけではない。その特徴は政治学的な視点だ。首長や議会と政党との関係に多くの紙幅を割いていたり、中央・地方関係をそれぞれのアクターの権力関係として捉えていたり。

【欠点】
 読み物としてのおもしろさに欠ける。地方自治にもともと相当の興味を持っているものならよいが、「ちょっと読んでみようかな」、「全くわからない分野だけど勉強してみようかな」といった読者にとっては読み通すのはなかなかの苦行になるのではないかと思える。

【総括】
 その分野の信頼できる著者による、昔ながらの重厚でまじめな新書。政治学的な視点での新しい(と思う)切り口も多くて問題提起的でもあり、行政学・地方自治を学ぼうとする大学1年生あたりには最適な教科書となる。


 重松清 『ニワトリは一度だけ飛べる(朝日文庫、2019年)

 

 「リストラ部屋」送りになった会社員たちが中心になって、不正を隠し通そうとする会社と戦う。その手段はゲリラ戦。そして、“戦士たち”は「オズの魔法使い」の登場人物たちになぞらえられる。

 重松清だから、ミステリー的、あるいはドキュメンタリー的な要素は薄い。かわりに、人間の弱さ、人間の優しさなどが話の中心になる。

 話の深さや読み応えはそれほどではない。

 ただ、「オズの魔法使い」がそこまで教訓的な深い話だったとは。必ず読んでみようと思った。



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