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 奥田英朗 『純平、考え直せ(光文社、2011年)


 21歳のヤクザ、純平がヒットマンに選ばれ、その実行まで3日間自由な時間を与えられる。その間、様々な人に会い、色々なドタバタ劇が繰り広げられる。

 ヤクザだけど実直で若者らしい主人公とか、年老いてから家族も捨ててグレ始めたマイペースな元大学教授のじいさんとか、良いキャラな登場人物が出てきたり、3日間の話なのに痛快で愉快なことがぎっしり詰まっていたり、いかにも奥田英朗らしい小説。

 だけど、これまでの他の作品と比べると、笑えるところも少ないし、話の展開もそれほど意外性がない。

 また、ネットの掲示板で純平のネタで盛り上がる人たちが出てくるのだけど、使われてる言葉がいちいち一般向けに分かりやすい言葉になっていて、2ちゃんの勢いとか雰囲気が全然出てない。(「スレ」を「スレッド」、「ネトウヨ」を「ネット右翼」とか。)

 そんなわけで、奥田英朗の小説としてはあまり面白くない小説。

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 海部俊樹 『政治とカネ――海部俊樹回顧録(新潮新書、2010年)


 1989年8月~1991年11月という、冷戦終結、湾岸戦争、バブル崩壊という時代の大転換期に首相を務めていながら、その記憶や業績の存在感がいまいち希薄な海部俊樹の回顧録。

 200ページに満たない新書でもあり、内容もかなり軽めで細部まで細かく語っているわけではない。 そして、純粋に過去を回顧するだけではなく、ある程度は現在の政治(小沢一郎や民主党政権)を批評するという意図も入っている。

 それでも、三木派・河本派・高村派と連なる小集団ながら理想主義的な政治を追求する清廉潔癖さ、とはいえ自民党らしい現実主義的な権謀術数を駆使する泥臭さが、様々な逸話から窺い知れる。

 そして、自民党内で少数派でありながら理想主義を追求していくことでの様々な軋轢や葛藤、そして、様々な場面での苦渋の決断が語られている。

 政治家としては小物のようなイメージもあるけれど、さすがに激動の時代を生き抜いただけあり、信念に基づいて飄々と真っ当な決断を下していっている。 さすがは政治家といったところだ。 安倍以来の最近の首相たちの優柔不断ぶり、迷走ぶり、大外しぶりを見ていると、優れているようにさえ思えてくる。

 そんなわけで、さすがに激動の時代の首相なだけの最低の資質は感じられた。

 けれど、それにしても、最近の首相たちによってかつてと(首相に求める基準の)感覚がずれてしまっていることの悲しさよ。

 

 大江健三郎 『美しいアナベル・リイ(新潮文庫、2010年)


 3年前に出版された『臈たしアアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』が改題・文庫化されたもの。


 ポオの詩に登場する純粋無垢な少女アナベル・リイ。 そして、クライストの『ミヒャエル・コールハースの運命』を基にした民衆の純粋無垢な力のたくましさを描く映画。 歳を重ねた2人の男が、もはや取り戻せない純潔さにもう一度接近すべく、アナベル・リイを思わせる美しき国際派女優を主人公に、「ミヒャエル・コールハース映画」を制作しようと計画する。

 しかし、その純潔や憧れの脆さや儚さのままに、その計画は頓挫して( or 外国人によって凌辱されて)しまう。 その後、登場人物たちは、大きな夢を追うのではなく地道に純潔を回復しようと各々が努めていくことへと方向転換していく。


 純潔なものへの憧れと、その儚さ。 その壊れ方のあっ気なさ。 そして、それを壊す粗暴なよそ者。

 派手さはないながらも、とても雰囲気があり、ささやかに(うるさくない程度に)批評性も含んでいる小説。

 寺島実郎 『問いかけとしての戦後日本と日米同盟――脳力のレッスンⅢ(岩波書店、2010年)


  最早、この連載(『世界』誌での連載「脳力のレッスン」)は私にとって毎月の発信などという営みを超えて、体中から溢れる時代への怒りを抑制し、眼を凝らして足元と世界を見つめ直し、理性を取り戻して時代というリングに上っていく大切な基盤となりつつある (「はじめに」より)

 そんな寺島実郎渾身の「脳力のレッスン」を集めたものの3冊目。自らの生い立ちとも絡ませた世代論(小田実、ゴジラ、月光仮面など)、アメリカがつまずき中国が台頭しつつある世界経済、普天間基地移設問題の本質たる今後の日米同盟のあり方、等々、定番の問題から興をそそる身近な事柄まで、幅広く、思考している。

 相も変わらず、読んでいると姿勢を正される思いがする。


 (宮沢喜一元首相が面談で、)「 日本人は思い込むと急に視界が狭くなるからなあ 」と呟やいていた。 長期的な「国益」を国際社会で実現するために実効ある外交施策を冷静に構想することよりも、狭隘な自己主張に熱を入れる傾向は、日本の国際関係において再三繰り返され〔てきた。〕 (p79)

 そんな日本人の一人として自戒し、普天間移設問題の先に日米同盟を、尖閣ビデオ流出事件の先に近代的政治制度を見据え、短絡的な感情に流されない強靭な思考と、確固とした理念と、しなやかな知性を、という気持ちになった。

 カレル・チャペック 『絶対製造工場(飯島周訳/平凡社ライブラリー、2010年)


 あらゆる物質に宿っている「絶対」という「神」を解放してしまう機械が発明された。 その「絶対=神」の空気に触れた人々は、全てを悟ったかのような平穏で神がかり的な境地に至った人物へと変貌してしまう。 そんな「絶対=神」が、世界中に拡がっていく過程と、それが世界中に充満した後に起こったことを描いている、1922年のSF小説。

 もちろん、古くはスピノザ的な汎神論などとも通じるところがあるけれど、何より、様々な宗教が「絶対」を主張して対立している現代においても非常に刺激的な作品。

 ただ、小説としては、やや単純なストーリー展開だったり、似たような話が場面を変えて出てきたり、単純な構成だったりで、それほどおもしろくはない。


 それにしても、「絶対」や「神」という至高のものがあっ気なくトラブルメーカーになる様は、なんとも儚く、やりきれない気持ちを湧き起こさせる。

 

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