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 海部俊樹 『政治とカネ――海部俊樹回顧録(新潮新書、2010年)


 1989年8月~1991年11月という、冷戦終結、湾岸戦争、バブル崩壊という時代の大転換期に首相を務めていながら、その記憶や業績の存在感がいまいち希薄な海部俊樹の回顧録。

 200ページに満たない新書でもあり、内容もかなり軽めで細部まで細かく語っているわけではない。 そして、純粋に過去を回顧するだけではなく、ある程度は現在の政治(小沢一郎や民主党政権)を批評するという意図も入っている。

 それでも、三木派・河本派・高村派と連なる小集団ながら理想主義的な政治を追求する清廉潔癖さ、とはいえ自民党らしい現実主義的な権謀術数を駆使する泥臭さが、様々な逸話から窺い知れる。

 そして、自民党内で少数派でありながら理想主義を追求していくことでの様々な軋轢や葛藤、そして、様々な場面での苦渋の決断が語られている。

 政治家としては小物のようなイメージもあるけれど、さすがに激動の時代を生き抜いただけあり、信念に基づいて飄々と真っ当な決断を下していっている。 さすがは政治家といったところだ。 安倍以来の最近の首相たちの優柔不断ぶり、迷走ぶり、大外しぶりを見ていると、優れているようにさえ思えてくる。

 そんなわけで、さすがに激動の時代の首相なだけの最低の資質は感じられた。

 けれど、それにしても、最近の首相たちによってかつてと(首相に求める基準の)感覚がずれてしまっていることの悲しさよ。

 
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