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 パオロ・マッツァリーノ 『「昔はよかった」病(新潮新書、2015年)

 

 『反社会学講座』以来、誰もが陥りがちな俗説の誤りを統計データや歴史資料を基におもしろおかしく指摘する著者の新作。

 今作では「昔はよかった病」と名付け、様々な(主に老害じじい・ばばあたちの)思い込みを正している。「火の用心」の拍子木の音に対する受容の今昔、戦前日本における熱中症を巡る凄惨な現実、江戸っ子の絆・人情などが取り上げられている。

 人間の直感や印象がいかにあてにならないかを思い知らされる。自らの経験や感覚を絶対視して傲慢に振る舞うと恥ずかしい目に合う。謙虚に、そして、今の世の中の幸せを感じながら、生きていこうと思わされた。



 ちなみに、この著者の著作は基本的にはおもしろおかしく書かれているのだけど、本によって当たり外れがある、と個人的には感じている。この本はおもしろかった。


 
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 NHKスペシャル取材班編著 『日本人はなぜ戦争へと向かったのか――メディアと民衆・指導者編(新潮文庫、2015年)

 

 2011年に放送されたNHKスペシャルを書籍化したもの。「メディアと民衆・指導者編」、「外交・陸軍編」、「果てしなき戦線拡大編」の3冊に分かれている。

 この「メディアと民衆・指導者編」では、まず第1章で「メディアと民衆――“世論”と“国益”のための報道」として、取材班による概要と3人の専門家へのインタビューが収められている。販売部数などの経済的な利益に惹かれ、また、政府・軍部による圧力により、戦意高揚を助ける報道を続けたメディア。メディアの影響もあり強硬な路線へと惹かれる国民世論。その世論に迎合するメディア・・・。悪者は誰だという感情論に傾くことなく当時のメディアと国民と政府・軍の相互作用を詳らかにしていて勉強になる。また、ラジオでは名演説家・永井柳太郎の演説が聴衆の熱気とともに放送されていた。たとえ内容が同じであっても、それを文字で読むのと耳で聞くのでは受け取られ方も大いに異なる。活字メディアではないが故の特徴、すなわち、感情によりダイレクトに訴えるという特徴を有するラジオが戦意高揚に果たした役割の指摘も、個人的には新鮮で面白いと感じた。

 第2章では「指導者――“非決定”が導いた戦争」と題して、取材班によるまとめと3人の専門家へのインタビューが収録されている。首相や軍部大臣など指導者たちが自身の責任に帰せられることを避け、それが故に、ネガティブな情報は隠匿され、決断を誰も行わない。こうして誰も何も決定することなく、非決定のまま戦争へと突き進んだ過程が個人名や証言なども挙げた上で具体的に語られている。この点に関してはかねてよりしばしば指摘されてきていて、新鮮な面白みは特に感じなかったが、日本人にとって忘れるべきでない大切な点だ。ちなみに、この日本的組織や日本人(日本的組織人)の問題に関しては別巻の「外交・陸軍編」にも詳しい記述がある。


 さて、ここで翻って現代の日本を顧みるに、ワンフレーズポリティクスが話題になり、自らの主張のためなら疑わしい根拠やすかすかなロジックに基づいた言説を平気で吐く議員が跋扈し、無責任な対応をして手厳しい批判を浴びる企業が後を絶たない。戦争を避けるために戦争反対を叫ぶことも無駄ではないのだろう。けれど、果たして、その行動はどこまで理性的なものなのだろうか。あるいは、どこまで真摯なものなのだろうか。もし仮に国民の8割が「戦争やむなし」の意見を持つようになったとき、「戦争反対の叫び」は果たして戦争を止めることができるのだろうか。叫ぶだけで止められるほど戦争は(戦争へと至る道は)単純なものなのだろうか。先の戦争を学び、その教訓を導き、それを今に生かしていくことは、本来まず当然のこととして行われるべきことだろうと、自戒の念も込めて、思う。



 瀬谷ルミ子 『職業は武装解除(朝日文庫、2015年)

 

 「武装解除」とは、紛争が終わった後、兵士から武器を回収し、職業訓練をし、社会復帰させる仕事のこと。筆者は24歳で国連ボランティアになり、以後、国連、外務省、NGOと所属組織を変えながら、アフガニスタン、ソマリア、シエラレオネ、ルワンダなど世界中の紛争地帯の前線で武装解除に携わってきた。

 そんな筆者が、開発援助の分野に飛び込むことになった経緯や世界各地での武装解除の経験を書いているのがこの本。

 大学3年でルワンダに赴き自分の無力を悟り、その後、紛争解決学をイギリスの大学で学ぶ。そして、24歳で国連ボランティアになって以降はひたすら世界各地の現場で武装解除を行ってきた。アフガニスタンでは各部族の司令官と交渉して戦闘員のリストを出させるのに苦慮し、また、カルザイ大統領から副大統領や国防大臣の人事についてのアドバイスを求められた。ケニアでは難民が集まった村で村人たちで管理できる給水パイプの建設のために、村人たちを説得し指導するのに奮闘する。南スーダンでは犯罪が横行する町のストリートチルドレンを学校や職業訓練校に通わせるために粘り強く働く。もちろん、武装解除の仕事を止めるよう銃で脅されたり、犯罪に巻き込まれたり、という筆者自身に降りかかってくる辛い経験もあった。

 実際の現場で行動する筆者の前では、安穏な日本にいて抽象的に武力紛争や戦争について語ることははばかられる。ひれ伏すしかないような気持ちにさせられる。厳しい現場で行動する筆者には本当に頭が上がらない。

 戦争と平和や紛争の解決について考える際には、せめて、筆者のような現場で働く尊い人たちの存在を頭に留めておくのを忘れてはいけないと思った。







 

 高橋源一郎 『競馬漂流記――では、また、世界のどこかの観客席で(集英社文庫、2013年)

 

 競馬のギャンブルという側面よりそこに関わる馬や人のドラマを愛する筆者が、日本や世界各地で見た「競馬」を綴ったコラムをまとめたもの。1996年の単行本の文庫化であり、登場する馬や人物は懐かしさを感じさせるものや知らないものばかり。

 17番人気で2着になった凱旋門賞のホワイトマズル。香港に遠征したフジヤマケンザンと森調教師と蛯名騎手。アメリカの競馬雑誌の表紙を飾ったジャパンカップ勝利後のレガシーワールド。はたまた、「黄金の馬」アハルテケ種。「3年で100億すった男」テリイ・ラムズデン。

 多様な話題を様々な観点から楽しむ筆者の姿勢は、熱くなることもなく、一見冷めているように見えなくもない。しかしそれは、自らの力では結果を変えることもできないし結果を予想し尽くすこともできないという達観から、純粋に目の前のドラマを楽しませてもらう「観客」に徹するという筆者の謙虚な信念によるものに思える。

 そんな謙虚な筆者と世界の競馬を漂流する旅はなかなか味わい深いものだ。





 池谷裕二、糸井重里 『海馬――脳は疲れない(新潮文庫、2005年)

 

 もう十年以上前に出版され、一時ちょっとしたブームのようになった海馬についての対談本。

 素人の糸井重里が質問したり、自分なりに理解したりしながら、雑談のような感じで進んでいく。 その中では、堅い本ではないから池谷裕二の仮説なんかも取り上げられている。

 好きなことは記憶しやすいとか、やる気になるためにはまず取り掛かることが必要とか、普段実感していたり、困っていたりするようなことが話題の中心になっている。「他の動物と比べて賢い人間」みたいな捉え方は全くされていなくて、ありのままの(ダメな)人間の実態を脳科学的に捉えていておもしろい。

 この本に書かれていることは今となっては大分世間に広まっているように思う。したがって新鮮さとか驚きとかはあまりなかった。出版当時に読んでいたらまた違った感想を持てたのだろうけれど。

 脳科学に関する本はかなりたくさん出版されている。いつか色々読みたいと思いつつなかなかできていない。脳科学的にはとりあえず一冊読んでみろということになるのだろうけれど。



 
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