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 柿喰う客・第10回公演 『 性癖優秀 』 ( 作・演出:中屋敷法仁/2007年8月29日~9月4日/@新宿シアターモリエール )
 
 
 劇団「柿喰う客」の芝居。相変わらず、おもしろくてクオリティの高い作品であります。

 他の劇団と比べて圧倒的に、センスを感じさせるし、濃密だし、前提知識が幅広いし、予定調和じゃないし、説教臭くないし、作品であることに自覚的だし、自己満・自己陶酔的じゃないし、、、いろいろいい。

 若くしてこの完成度の高さは何なんだろうか。
 
 
 ただ、今年3月の第9回公演「女体カーニバル」の3つの作品と比べると、密度は薄く、インパクトは小さかった。(※「柿喰う客」の魅力とかおもしろさが味わえるレベルは十分に保たれているけど。)

 気楽にぼーっと観始めて、途中で、はっ!となったり、脳が働き始めてかーっと熱くなったり、というようなことがなくそのまま終わってしまった。( もちろん、途中笑いはいっぱいあったけど。)

 うーむ。
 
 
 一つには、「女体3部作」に比べて話の展開が少ないことがあるだろう。

 というのも、話が展開するのが、「つばめちゃん」がいろんな役割を背負わされている巫女だということが明かされてから(少なくとも始まってから半分は過ぎてると思う)で、それまでは、主人公の少年が引っ越したりはするけど、機能的に見れば、ほとんど状況とか設定を説明するだけでしかない。( もちろん、笑いは常にどんなところにも盛り込まれてるけど。)

 そのために、「女体3部作」に比べて密度が薄くなって、観劇中の頭の働きは少ないし、観終わった後の満腹感も小さくなった。

 「単純な二項対立の構図」が密度を低くしてるのかとも思ったけど、それもあるにしても、おそらく、この「話の展開の少なさ」の方が要素としては大きいと思う。
 
 
 それから、二つ目に、話の一番大枠の設定が現実より温(ぬる)いことがある。

 一方に、郊外のニュータウンに住む若い夫婦たちの(タテマエ上はともかく)性に対する開放的な考えがある。そして他方に、山村に住む人たちの子孫を残すためのフリーセックスの風習や怪しげな伝統的な“祭”がある。

 前者は、ニュータウンの若い夫婦たちの「日曜に公園で遊んでる明るいファミリー」みたいなありがちなイメージに対して(かなりあり得る)現実を突きつけてるという意味で、ベタすぎではあるけれど悪くはない。

 けど、後者はよろしくない。

 都会の若者の性生活の“乱れ”を嘆き、“古きよき”田舎における性に対する慎ましさ、“古きよき”昔の日本における性に対する慎ましさ、という枠組みに無理やり現実を押し込もうとする人たちにとっては刺激的な設定かもしれないけど、そんな人たちは芸術表現を語る場においては放っておいてもいい。( 宮台真司の『世紀末の作法』でも読めば済む。)

 では何がよろしくないかと言うと、田舎を美化していること。

 田舎で性的に自由な行為や慣習が存在しているのを「子孫を残すため」という“まとも”で合理的な理由で正当化してしまっているのだ。

 これが「柿喰う客」らしくなくて温い。

 上で挙げた宮台真司の本でも言われているように、「子孫云々」なんてことがなくても、田舎では都会や郊外より性体験の年齢が早かったりと、けっこう性に対して開かれているものだ。都会から引っ越した女の子が戸惑ったという話も本には出てくる。“田舎のおじさん”とか、けっこう明け透けだったりするでしょ?

 その理由としては、ただ単に都会に比べて遊び場がないからとか、世間が狭くて隠し事ができなくて慎ましさという考えがないからとか、女性の社会進出が進んでないからとか、色々考えられるけど、少なくとも「子孫を残して村を存続させる」なんていう優等生的な理由ではない。

 つまるところ、話の一番大きな設定が平和すぎてつまらないのだ。そのために、作品全体のぶっ飛び感を抑え、作品のインパクトを小さくしてしまっている。
 
 
 宮台真司が出た(自分で出したんだけど)から、ついでに言っておくと、この劇団の芝居、宮台真司的な世界や批評にかなり近いものを描いている。にもかかわらず「宮台、読んでないの?」と思わせるところがちょくちょく出てくる。今回の芝居もそうだし、以前観た売春女子高生を描いた『サバンナの掟』の優等生的な結末を観たときも思った。( この場合、『制服少女たちの選択――After 10 Years』ね。) 「読んでない」と思わせるところと話がぬるくて甘くなるところが重なるだけに、このことはどっちでもいいことではない気がするのだ。
 
 
 とはいえ、色々気付いたところはあっても、それでも作品のおもしろさはずば抜けている。

 なんでおもしろいのかというのは言葉にするのが特に難しいことだけど、冒頭にさらっとあげつらった一つ一つの要素が絡み合って、(一つの話の中という一定の縛りがある中で)自分の経験・思考・想像を超えていってくれるところがおもしろいと感じさせるのだろう。
 
 
 今度は1公演で2回観に行きたい。1回で色々把握して考えて言語化するほどのキャパシティがなくて、毎回、感想を書くたびに何となく辛い。
 
 
 それにしても、予約するたびに(実力通り)人気が上がってて予約できなかったらどうしようとか勝手に心配してるんだけど、こういう劇団や演出家が、将来、日本の演劇界の中心を担っていくんじゃないのだろうか。違うのだろうか。まあ、今メジャーな人たちの昔を知らないからよく分からないけど、この劇団が今後どうなるのかはすごく楽しみではある。

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