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梶井厚志 『戦略的思考の技術――ゲーム理論を実践する』 (中公新書、2002年)
ゲーム理論的な思考法を普通の言葉で説明しているゲーム理論の初級向け入門書。
2章と3章は利得表とかツリーとかが出てきてゲーム理論っぽいけど、他の章は、インセンティブ、コミットメント、ロックインなどの重要な概念を卑近な例を用いて普通の言葉で説明がされている。
ゲーム理論を全く知らない人が読むと、ゲーム理論というもののイメージをつかめて有用だと思う。
また、副題の通り、ゲーム理論的な思考法(戦略的思考)を実生活で、意識的に活かすとこうなるということもよく分かる。
ただ、若干長くてくどい。(新書なのに274ページもある。)
しかも、2~3章の内容より4~11章の内容の方が簡単だから、なんか気が抜ける感じ。
いや、でも、文章は分かりやすいし、おもしろい話も混ぜてあるし、良書であることには違いないけど。
橘木俊詔 『格差社会――何が問題なのか』 (岩波新書、2006年)
日本の経済格差に関してデータを示しながら包括的に説明している良書。
内容は3つに分けられる。
すなわち、1.国際的・時系列的に見た日本の格差の“現状”とその背景、2.すでに起こっている、あるいは、これから起こるであろう格差社会の“惨状”、3.格差社会への“処方箋”。
この内容を見て分かるとおり、著者は現状の日本の格差を、いわば“悪性の格差”であり改善が必要だと考えている。
その熱い気持ちが、たまにほとばしり過ぎて「エモーショナルな話」を持ち出してしまうのは微妙。また、地方経済の活性化策など、処方箋のいくつかも実効性・実現可能性に疑問あり。
もちろん、基本的には冷静に論じていて、格差問題に興味がある人の最良の入門書になっている。
さて、最後に、自分が思っている最近の格差論議を考える際のポイントをメモ的に列挙しておこう。
・高齢化というのは経済格差を広げるものである。
・ただ、近年激増している若年フリーターは、生涯所得でも各種社会保障でも冷遇されているため、将来、大きな格差を生み出す可能性が高い。
・近年、若年フリーターが激増したのは、就職氷河期をもたらした長期不況という不運な社会状況によるところが大きい。
・若年フリーターの多くは、「夢追い型」ではなくて、正社員になることを望んでいる。
・とはいえ、今後、景気が回復しても、新卒ではない若年フリーターが正社員として雇われ、フリーターが劇的に減るとは考えにくい。企業にとってはパートやアルバイトは解雇しやすいというメリットもある。
・したがって、不運な社会状況が生み出した大量の若年フリーターに、今後より現れてくるだろう苦しい生活の責任を押し付けるべきではない。
・日本の福祉制度・セーフティーネットは、新卒入社で終身雇用の男性や、サラリーマンの夫と専業主婦と子供からなる家庭や、成長経済など、古い前提の上に成り立っていて、若年フリーターの存在、単身世帯の増加、女性の社会進出、高齢化などに全く対応できていない。
・日本の金持ち向けの所得税は国際的にも決して高くなく、それを下げると経済全体が活性化するというのもまやかしに過ぎない。相続税も下がり続けて国際的にも低くなっている。
・読売新聞や経団連会長みたいに、公共心や公徳心の重要性を訴えながら、金持ちがより所得税が低い国に逃げないように「所得税を上げるべきではない」と主張するのはおかしい。金持ちこそ公徳心や愛国心を持つべきである。
・消費税は所得が低い層にとって不利な税金である。
・日本国民の租税負担は国際的には低い水準にあるのも事実。
・とにもかくにも、アメリカみたいな、個人主義/自己責任を社会原理として徹底し、格差を容認し、貧困層が増え、犯罪が増発するというような社会は嫌だ。
岩田規久男 『「小さな政府」を問いなおす』 (ちくま新書、2006年)
「小さな政府」に関連のある、経済理論、外国の例(イギリス、スウェーデン)、日本の過去の試み、小泉政権の政策などを概括している本。(※タイトルはミスリーディング)
「小さな政府」について議論する際に最低限知っておきたいことが網羅されている。
特に、スウェーデンの福祉とかサッチャーの改革とかは、色々な人が自分の主張を強化するために一面だけを切り取って持ち出すことが多いから、その前提条件とか功罪が冷静に論じられているのはありがたい。
ただ、この本では、この著者が他の新書(『経済学を学ぶ』、『日本経済を学ぶ』など)で見せている“難しいことを分かりやすく説明する爽快さ”が、説明していることがあまり難しくないためか、なりを潜めている。
それに、色々な本(増田悦佐『高度経済成長は復活できる』とか)の内容を切り貼りしているだけの箇所も多め。
そのため、読み物としては、ややおもしろさに欠ける。(もちろん、言っている内容は重要なことだけど。)
とはいえ、良心的な正統派経済学者らしい真面目で手堅い内容だから、読んでおいて損のない一冊、という感じ。
田中秀臣『経済政策を歴史に学ぶ』 (ソフトバンク新書、2006年)
格差社会論、構造改革主義批判、エコノミスト市場、日本経済学史、リフレ政策といった、著者がこれまで各所で発表してきた文章をまとめたもの。
最近の経済論壇を盛り上げている牽引役の一人である著者が、そのブログなどで書いているものが基になっているため、ネットを中心とした最近の経済論壇を理解する手助けになる。(これで著者のブログの専門的な記事も読めるようになるかも)
もちろん、ブログで書かれているものより一般向けの丁寧な説明になってはいる。とはいえ、特に後半では、貨幣と実体経済、フィッシャーの公式関連など、経済学の専門用語を用いたちょっと難し目の話も入っている。(ただ、頑張れば十分に議論をフォローできる、と思う)
具体的な内容の中で、自分が目を見開かされたことの一つは、小泉首相が当初の威勢のいい市場原理主義的、清算主義的な路線を早々と放棄し、その後、景気に対して「何もしない」首相であったという指摘。
この話は高橋洋一の雑誌記事や野口旭『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』に書かれているようである。野口旭の本には2003年以降に景気が上向いた理由についても書かれているようだから、いつか読んでみたい。
それにしても、イメージとは恐ろしいものだ。それに、(景気対策にはほとんどならない)郵政民営化の断行とかにも騙された。(自分は小泉首相の市場原理主義政策を支持してないからいいのだけど。)道路公団民営化とか郵政民営化とかがヒューリスティックの役割を果たしていなかったということだ。
目を見開かされた二つ目は、「構造改革」と言ったとき、何よりも当初の小泉首相や竹中平蔵や野口悠紀夫といった人たちが典型な、“供給”側を重視する見方が思い浮かぶけれど、「“需要”側を重視する構造改革もあり得る」という指摘。
すなわち、「構造的な需要不足を打破するための新産業創出」のような「構造改革」を唱えるケインズ経済学者の主張である。小野善康、吉川洋が典型である。確かに、言われてみれば彼らも「構造改革」を目指している。
ちなみに、吉川洋は経済財政諮問会議のメンバーである。果たして供給側を重視する構造改革主義者と意見が一致するのだろうか? 吉川洋にはケインズに関する著作があるだけに、「主張が違うのでは?」と以前から思っていた。著者は最後の「ブックリスト」のところで、吉川洋の著書(『構造改革と日本経済』)を次のように紹介している。
「 小野(善康)と異なり、構造改革主義ケインズ経済学を突き進めることで、新古典派の彼方に消えた本。 」(p220)
分かったような分からないような説明だが、・・・・そうなのだろう。
この本には、タイトルの通り歴史上の(日本の)事例・経済学者が数多く取り上げられている。しかし、時事経済問題に興味がある自分のような人間にとっては、なくても良かったかなと思えてしまう。ただ、それでも時事経済問題に関する整理・理解を深めることができたのだから特に問題はないけど。
ポール・クルーグマン『嘘つき大統領のアブない最終目標』 (三上義一、竹熊誠訳/早川書房、2004年)
貪欲に今日2個目の記事を更新。
ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された、ノーベル経済学賞候補と目される経済学者による歯に衣着せぬ過激な内容のコラムを29篇集めたもの。『嘘つき大統領のデタラメ経済』の続編。収録されているのは2003年3月から2004年3月の間に書かれたもの。
ちなみに、邦訳のタイトルはかなりインパクトのあるものになっているけど、原著のタイトルは、"The Great Unraveling"。訳せば、「ひどい破綻」とか「大崩壊」とか(だと思う)。
29篇のコラムは、大まかに、「戦争とテロ」、「減税と社会福祉」、「権力の濫用」の3つに分かれている。主張の内容はそんなに多岐に渡らない。
「戦争とテロ」では、大統領自らがテロの恐怖を煽っておきながら対テロ予算を拒否するなど国内のテロ対策を怠っていること、何だかんだと理由をでっち上げてアルカイダの拠点であったアフガニスタンからテロ組織と関係のないイラクへと主要な軍事力を移動させてしまったこと、が主に語られている。
「減税と社会福祉」では、金持ち向けの減税を自ら行っておいて、いざ歳入が減って財政が赤字になると、その赤字を利用して福祉支出の削減を行おうとしていることが主に語られている。
「権力の濫用」では、政権に不利な情報はどんな手段を使っても消そうとしていることが主に語られている。
この本を読んでいると、小泉首相がまともに見えてくるから恐ろしい。