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橘木俊詔 『格差社会――何が問題なのか』 (岩波新書、2006年)
日本の経済格差に関してデータを示しながら包括的に説明している良書。
内容は3つに分けられる。
すなわち、1.国際的・時系列的に見た日本の格差の“現状”とその背景、2.すでに起こっている、あるいは、これから起こるであろう格差社会の“惨状”、3.格差社会への“処方箋”。
この内容を見て分かるとおり、著者は現状の日本の格差を、いわば“悪性の格差”であり改善が必要だと考えている。
その熱い気持ちが、たまにほとばしり過ぎて「エモーショナルな話」を持ち出してしまうのは微妙。また、地方経済の活性化策など、処方箋のいくつかも実効性・実現可能性に疑問あり。
もちろん、基本的には冷静に論じていて、格差問題に興味がある人の最良の入門書になっている。
さて、最後に、自分が思っている最近の格差論議を考える際のポイントをメモ的に列挙しておこう。
・高齢化というのは経済格差を広げるものである。
・ただ、近年激増している若年フリーターは、生涯所得でも各種社会保障でも冷遇されているため、将来、大きな格差を生み出す可能性が高い。
・近年、若年フリーターが激増したのは、就職氷河期をもたらした長期不況という不運な社会状況によるところが大きい。
・若年フリーターの多くは、「夢追い型」ではなくて、正社員になることを望んでいる。
・とはいえ、今後、景気が回復しても、新卒ではない若年フリーターが正社員として雇われ、フリーターが劇的に減るとは考えにくい。企業にとってはパートやアルバイトは解雇しやすいというメリットもある。
・したがって、不運な社会状況が生み出した大量の若年フリーターに、今後より現れてくるだろう苦しい生活の責任を押し付けるべきではない。
・日本の福祉制度・セーフティーネットは、新卒入社で終身雇用の男性や、サラリーマンの夫と専業主婦と子供からなる家庭や、成長経済など、古い前提の上に成り立っていて、若年フリーターの存在、単身世帯の増加、女性の社会進出、高齢化などに全く対応できていない。
・日本の金持ち向けの所得税は国際的にも決して高くなく、それを下げると経済全体が活性化するというのもまやかしに過ぎない。相続税も下がり続けて国際的にも低くなっている。
・読売新聞や経団連会長みたいに、公共心や公徳心の重要性を訴えながら、金持ちがより所得税が低い国に逃げないように「所得税を上げるべきではない」と主張するのはおかしい。金持ちこそ公徳心や愛国心を持つべきである。
・消費税は所得が低い層にとって不利な税金である。
・日本国民の租税負担は国際的には低い水準にあるのも事実。
・とにもかくにも、アメリカみたいな、個人主義/自己責任を社会原理として徹底し、格差を容認し、貧困層が増え、犯罪が増発するというような社会は嫌だ。