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竹森俊平 『1997年――世界を変えた金融危機』 (朝日新書、2007年)
1997年に発生したアジア通貨危機と日本の金融危機を、「質への逃避」、「ナイトの不確実性」、「流動性の危機」といった観点から分析した本。2007年の危機であるサブプライム問題についても最後に触れられている。
全体としては焦点が散漫だし、年号にこだわったタイトルは内容と合ってないけど、個々の話は分かりやすくて勉強になった。
キー概念の中でも特に中心的役割を負っているのは「ナイトの不確実性」。ここでは「リスク」と「不確実性」がはっきりと区別される。すなわち、「リスク」とは、その事象が起こるか否かを確率論的に表せるもののことを言い、「不確実性」とは、それが不可能な、客観的な判断や見通しが全く立てられないもののことを言う。
この「不確実性」が存在する中で、人々の間で悲観的な見方が大勢を占めたことが(理由については失念した)、より安全な資産への選好(「質への逃避」)を作り出し、アジアへの投資を一斉に引き上げさせ、そうしてアジア通貨危機は引き起こされたとされる。
ちなみに、だからこの危機は「返済能力の問題」ではなくて「流動性の問題」であって、したがって流動性を増やすという(グリーンスパンが主張した)政策が正解だとされる。だけど、その副作用として、増加し(すぎ)た流動性のためにアメリカでは住宅バブルが起こってしまった。さてどうすべきか?といったあたりで話は終わっている。 ( 日本の金融危機の話の方は、扱いが散発的で、政治の話に中途半端かつナイーブに足を踏み入れたりしていて、いまいち全体の論理の流れを掴めなかった。)
経済学の難しい話に踏み込むことなしに、キータームをいくつか持ち出すだけでこれだけ分かりやすくアジア通貨危機をはじめとする重要な経済事象を説明してしまうのはすごい。
それから、「不確実性」という“分からないもの”をそのまま“分からないもの”として理論や分析に組み込んでしまう経済学の柔軟な芸当に感心した。
これだけすっきり説明されると、門外漢には簡単には批判できない。
強いて批判点を挙げるなら、本全体の構成と政治の話の扱いくらい。