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 M. ルイス 『後悔の経済学ーー世界を変えた苦い友情』 (渡会圭子訳/文春文庫、2022年)


 人間が不合理で愚かなことは誰もが実感を伴って知っている。しかし、そこに規則性を見出し、それを科学的な理論として構築しようとした人はいなかった。

 エイモス・トヴェルスキーとダニエル・カーネマンは人間の不合理な行動を理論化し、行動経済学の基礎を築いた。この本ではその2人の共同研究あるいは人生のストーリーを追っている。


 原題は、Michael Lewis "The Undoing Project" (2017)。

 作者のマイケル・ルイスは『マネー・ボール』、『世紀の空売り』が日本でもとても有名。



 さすがはマイケル・ルイス。2人の人生を興味深く追いながら、不合理な行動の心理学や行動経済学が発展していく過程も追われていて、二重におもしろい。

 イスラエル出身の2人の人生は普通の学者人生とは異なっている。ナチスの迫害を逃れ、中東戦争を戦い、イスラエルで研究成果をあげ、そして、アメリカの大学へ渡る。

 才気あふれる2人の共同研究の様子もスリリングだ。天才同士が作り上げる異様な世界へ入ることは他の誰も許されない。そんな異世界で理論が磨き上げられていく。

 そんな2人に訪れる「離別」。ドラマチックだ。



 カーネマンは聞いたことがあるけど、トヴェルスキーって誰?という疑問もこの本を読めば解消する。

 そして、人生の物語をおもしろく読みながら、行動経済学の基礎も学ぶことができる。


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 ジェイムズ・クラブツリー 『ビリオネア・インド(笠井亮平訳/白水社、2020年)

 
 中国が“これからの国”とはもはや言えなくなった今、次の“これからの国”といったらインドではないだろうか。

 しかし、インドについて知ってることの浅さと言ったら顔を赤らめたくなるレベルだ。

 そこで、インドについてのおもしろそうな本を見つけたのをきっかけに意を決して読んでみることにした。

 450ページ近くある大部だけに、小難しい文体・内容だったら嫌だなと不安も抱きつつ読み始めた。

 「プロローグ」。事故を起こしたアストンマーチンの話からうかがい知れる異様な社会の空気に、一気に興味を惹きつけられた。

 そして、続く「序章」での世界でも類まれなレベルの巨大な個人邸宅「アンティリア」の話。

 おもしろい!インドってこんな国なの!って目から鱗が落ちるレベルの知識・エピソードが次から次へと出てくる。

 全12章で知ることができるのはインドの超大金持ちのことだけではない。確かにビリオネアは全編を通して登場する。しかし、ビリオネアは政治、行政、経済、法律、スポーツ、地方政治、宗教とあらゆるところに影響力を持っているため、ビリオネアを通してインドのあらゆる現実を知ることができるのだ。

 この1冊でインドについて相当広範な知識が手に入る。



 インドにおいても相当ひどいレベルの汚職が蔓延っていた。(モディ首相の改革によって相当良くなったと著者は指摘している。現状の汚職レベルはわからない。)

 これは、(違いもあるだろうが)日本も中国も通ってきた道だろう。

 そこで一つ気になったことがある。

 汚職にも合理性があるのだろうか。あるいは、もし汚職がなければもっと生産性を高くすることができたのだろうか。あるいは、脆弱な社会保障システム・公的支援の代替的な役割でも果たしていたのだろうか。

 経済学ではきっとその辺の研究もあるのだろう。いつか見つけたら読んでみよう。
 
 そんなことが、インドのあまりにひどい汚職エピソードの数々を読みながら気になった。



 この本ではモディ首相の改革によって汚職も相当抑えられているとしている。

 しかし、本当だろうか。なぜそんなことが可能だったのか。

 これからも汚職は減り、法システムの安定した先進国へとインドは進んでいくのだろうか。

 そのあたりはこれから個人的に注視しつつ、他の本を見つけたら読んでみたい。

 山形浩生、岡田斗司夫FREEex 『「お金」って何だろう?(光文社新書、2014年)

 

 「お金」についての山形浩生と岡田斗司夫の対談本。

 となると、経済素人の岡田斗司夫がいろいろ素朴な質問をぶつけ、山形浩生がそれに答えながら「お金」について解き明かしていく本なんだろうと漠然と思いながら読み始めた。

 第1章、第2章くらいはユーロの欠点や貨幣を発行する権限を国家が持つことの意義とか、「お金」を根本から考え直すような話でフムフムと読み進めた。

 が、第2章の途中あたりから漠然と感じていた岡田の「評価経済」推しが、第3章で完全に前面に押し出されてくる。ここでは、岡田が一方的に自分の考え(かなり現実性に乏しい)を話し、それに対して山形が大人な当たり障りのない返答をするという形式になる。当初期待していた内容は見事に悪い意味で裏切られてしまった。

 そして、第4章。ただ単に岡田が行っているパトロン制の宣伝だ。合点がいった。全てはこのためだったのだと。

 第5章は格差の話。格差が拡大することで、(1)高額商品が売れなくなってくる、(2)低所得層があきらめてしまって頑張ってもしょうがないと思うようになり経済全体の低迷につながる、といった格差の弊害の話は興味深かった。



 この本によって岡田斗司夫の本は自らの宣伝のために書いている可能性があるという「評価」がなされる気がするけれど、果たしてそれでいいのだろうか?




 J.K.ガルブレイス 『満足の文化(中村達也訳/ちくま学芸文庫、2014年)

 

 AKB48が超巨大で有名なグループになってしまった今、そのメンバーたちを見て、現状に満足しきっていてかつての「何でもやります!やらせてください!」というハングリーな気持ちがなくなってしまっていてつまらない、という感想を持つ人も多いことだろう。

 この本で語られるのも根本は同じことだ。つまり、経済的に満たされる状態になった人たちは現状肯定的な、寺島実郎が言うところの「生活保守」的な態度・精神になってしまっていると。そして、政治制度も経済学もそれを支え、正当化するものになってしまっていると。

  裕福な人々の信念は、自分たちが引き続き満足を得ることを正当化してくれる大義名分を生み出す。 (p12)

 この現実に加えて、現代においては次のような事態がその拡散に貢献している。

  支配権を握っている満足せる階層の信念が単に少数者のものではなく、今や多数者のものとなったということである。 (p21)

 民主主義の世の中においては、この現実が「満足の文化」を公共的な制度の隅々までに浸透させることへとつながっていく。

 その結果、新自由主義を信奉し、政府の介入を過度に嫌い、増税に反対し、官僚的組織に依存し、少数の下級階層の労働を利用し、という社会が形作られる。


 もちろん、多くの人が経済的に満たされている「満足の文化」が浸透した世の中は悪いことばかりではない。裕福になり身近に問題がないことによる投票率の低下などはそれほど目くじらを立てるほどのことでもないのだろう。

 その一方で、同じ国に貧困に苦しむ人がいようともお構いなくあくまで自己中心的にだけ考え、現状を肯定しているかのように見えるアメリカ社会の今を見るに、楽観してばかりもいられないという危機感も持っておく必要はありそうだ。

 アメリカに関して言えば、町山智浩『99%対1%』に描かれているような「満足せる人たち」がほんのわずかという極端な状態になっていると見ることも可能であり、「満足せる人たち」が多数を占めていた時代がむしろ素晴らしい時代に思えなくもない。

 翻って日本のことを考えるに、厚生労働白書が「中流崩壊」を取り上げるなど日本でも格差が拡大する方向へと進みつつあったりした。(最近のデフレ緩和で今後どうなるかはまだ分からない。)そして、 かつての「横並び社会」を二度と取り戻すことのできない楽園として懐かしむ日さえ来るかもしれない。

 この本の原著が書かれたのは1992年だが、今や、「満足の文化」の先を見据える必要があるのだと思う。


 
 
 

 町山智浩 『99%対1% アメリカ格差ウォーズ(講談社文庫、2014年)

 

 北朝鮮や中国というと政治経済制度の違いもあり、「どうせどこかしら日本のような民主主義国・資本主義国とは違うのだろう」と、違うことを前提に懐疑的に何であれ話を聞く。

 それに対して、アメリカは民主主義・資本主義の国で、日本の仲間(同盟相手)であり、かつて追いつけ追い越せと目標にしてきた(憧れてきた)国であるだけに、つい、日本と同じであることを前提として何事も考えてしまう。

 その結果、想像を絶するような事実を聞いたときも、北朝鮮や中国なら「やっぱり」と納得してすっと受け入れるが、アメリカだと「いくら何でもそんなはずないじゃん」と話を真に受けなかったりする。

 「アメリカは貧富の差が激しい」、「アメリカには国民皆保険がない」、「人種差別はまだまだ払拭できていない」、これらのことは情報として何回も聞いてきた。でも、どこかで「そうは言ってもアメリカだし」と留保を付けてきたところがあった。

 しかし、この本によって、そんな生ぬるい井の中の蛙な認識を根底から破壊させられた。



 「ティーパーティー」や「FOXニュース」というと今のアメリカを語るのに外せないもののように捉えられている。大手新聞も普通に国際面の大きなスペースを割いて報じている。それらを知らないと無知だとバカにされるようなそんな存在として日本では思われている。

 しかしその実態は、「オバマはテロリストの弟子」、「オバマは小学校でイスラム過激派の教育を受けた」、「国民皆保険は社会主義の始まりだ」、「所得税は一律25%に」などという報道・主張を堂々としている団体だった。

 日本で言うなら、ことあるごとに「軍靴が聞こえる」とか「独裁者だ」とか「朝鮮人の仕業だ」とか言い出す人たちのようなものだ。

 厄介なのは、日本のそういう過激な「1%」と違い、アメリカのそういう「1%」はやたらと金を持っているということだ。FOXニュースはメディア王マードックが、ティーパーティーはコーク兄弟(個人経営の企業で全米第2位の会社を持っている)が背後で潤沢な資金を援助している。

 TVCMで「州知事時代に第1級殺人の囚人に週末の外泊許可を出した」という誤った情報大々的に流し、ある大統領候補の支持率を落下させるのに一役買ったのはFOXニュースの会長アイルズだ。

 このような物量作戦が功を奏したのか、ティーパーティーが大統領候補を擁立したら投票するとした人は16%にもなったり、FOXニュースのキャスターがニュースキャスターの人気上位に来たりと、その存在感は無視できないくらいになっている。



 差別的な侮辱的な発言・主張を堂々とできてしまうアメリカ。同じ国に済む人たちのことは全く考えず自己中心的な主張が支持を得ているアメリカ。

 今の日本と比べてどちらが良いだろうか。少なくとも自分は今の日本を守りたいと思う。



 
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