忍者ブログ
by ST25
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 寺島実郎 『何のために働くのか(文春新書、2013年)

 

 多摩大学の学長でもある著者が、「働くということ」について、その意味、先達たちからの教訓、時代認識、自らの経験といった視角から語り明かしている。


 まず、働くことの意味について「カセギ」と「ツトメ」というキーワードを出し語り始めている。実に現実的な視点に降りて話していることに非常に共感しながら読み始められた。

 「フロントランナーから学ぶ」という続いての章では、スズキの会長やソフトバンクの社長やHISの会長の話を持ち出し、彼らの行動力や人間力を見習えと言う。成功者が往々にして持ち合わせている行動力やバイタリティは、あらゆる可能性をこじ開けてくれるものであり、その重要性は疑うべくもない。が、それを持つことを望める人がどれだけ存在するのだろうか? 少なくとも多数派ではないだろう。

 続く章で、筆者自身の経験が語られる。小難しい本を読み漁って先生に食って掛かった高校生時代。早大時代の博報堂でのアルバイト経験。三井物産で海外を渡り歩いて得たあらゆる知見。実にエキサイティングで魅力的な人生を歩んできている。ただし、一つ言えるのは、筆者は、自分の趣味に没頭したいと思うような凡人ではないということだ。

 続いて時代認識が語られる。グローバル化、アジアダイナミズム、IT革命、ものづくり、エネルギーなどいくつかの観点が選ばれている。

 その後の章は「企業の見極め方」という実に実践的なテーマになっている。ポイントとして挙げられているのは、自分自身をよく突き詰めて考えること、企業の収益の構造を確認すること、会社の人を見ることなどである。どこをどう見ていいか分からず、結局表面的な数字やイメージやらで判断せざるを得なくなりそうなところを、自分でもできる見極め方を提示していて、さすがは世界や時代を見抜いてきた分析力だと思った。ただ、そんなに優良な中小企業が簡単に見つかるだろうか?

 そして、最後の章で結論として、「不条理を取り除くため」に働くべきだと説く。


 どんなことにも当てはまるが、できる人というのは放っておいても勝手に自分でできるものだ。必然的に問題は、そうではない人たちをどうするかということになる。30%を超えるという非正規労働者、就職氷河期に特に多くいるであろう希望の職に就けなかった者、「失われた20年」を生きてきて理想もなくなり最低限の稼ぎさえあれば後は趣味に没頭してまったり生きたいと考える者、そういった人たちが多い現代の日本という時代を筆者はどう考えているのだろうか? 筆者が語るものの多くは、「できる者の話」、あるいは、「(高度成長であれ低成長であれ)右肩上がりの時代の話」にしか聞こえない。かつて、終身雇用などの「日本型雇用」と言われたものが実は大企業にしか当てはまらないという有力な批判が出されたことがあったが、同じ観点からの批判に筆者は向き合うべきではないだろうか?

 この本で語られる話はあまりに浮世離れした理想的な話ばかりにしか見えない。もちろん、難関大学を卒業し、一流企業に就職する人は絶対数ではそれなりに今でもいる。けれど、繰り返しになるけれど、それらの人たちはあーだこーだ言われなくてもできてしまうのだ。この、理想を持てない時代に青春時代を過ごしてきた若者たち、30%以上が非正規雇用という新たな労働環境の時代、未だに抜け出せずにいるデフレ、これらの今そこにある問題を視野に入れていない労働観なんてどれだけ存在意義があるだろうか。

 「不条理からの解放」という公共への視野のある筆者には時代の生んだ弱者への視点を期待したかった。


 

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
09 2024/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
最新コメント
[10/20 新免貢]
[05/08 (No Name)]
[09/09 ST25@管理人]
[09/09 (No Name)]
[07/14 ST25@管理人]
[07/04 同意見]
最新トラックバック
リンク
プロフィール
HN:
ST25
ブログ内検索
カウンター
Powered by

Copyright © [ SC School ] All rights reserved.
Special Template : 忍者ブログ de テンプレート and ブログアクセスアップ
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]