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by ST25
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 大森秀臣 『共和主義の法理論(剄草書房、2006年)
 
 
 政治哲学とか法哲学の議論のほとんどが「リベラリズムと民主主義(憲法的に言えば、立憲主義と民主主義)の対立」の問題にしか見えず、しかもこの究極的な対立を「民主主義」を基礎に据えて乗り越えて行かなければならないと考えているような自分には、かなりヒットな作品。こういう議論を待っていた。

 
 
 著者は、(ロールズを念頭に置いた)リベラリズムが前提にする「公/私分離」は、参加や審議を「善」の一つとして個人の自由に任せてしまうため、「法の公共的正統性」(ここで言う「法」は「憲法」と、「公共的」は「民主的」と言った方が分かりやすい)を語り得ないことに問題意識を見出す。そして、「法の公共的正統性」を含みつつも「個人の自由」をも擁護できる理論として、マイケルマンとハーバーマスの理論を補完的に併せた「審議-参加型共和主義」を提示する。

 この結論的な主張が自分に近いというに止まらず、途中の議論も自分にとって非常に興味深い観点からなされていた。

 例えば、「参加」や「審議」といった民主的な概念のリベラリズムにおける位置付けを検討しているところや、自分の考えに近いところがあると思いつつもいまいち理解できないために使うのを控えてきた共和主義を「徳性-陶冶型」と「審議-参加型」という二つに分かり易く分けているところ、この二つの共和主義と民主主義論との関係を論じているところなどである。

 ここで挙げた例からも分かるとおり、政治哲学における主な主張(リベラリズム、共同体主義、共和主義、民主主義論)に関する著者の整理は非常に大胆で鋭く、分かりやすい。

 そんなわけで、問題意識、主張、議論の整理と、どこを取ってもおもしろく、かつ勉強になった。
 
 
 ただ、不満な点が二点あった。

 一つは、「自己統治が失われたことの背景」として、グローバル化や多文化主義的状況による国民国家の衰退を挙げているところ。あまりにもナイーブな議論。社会系の哲学者や憲法学者にしばしば見られることだが、俗説に捉われた何の根拠もない事実認識を語ることは、実証的な研究を重視する立場からすると、とんでもなく低俗な議論にしか見えない。

 不満の二つ目は、「審議-参加型共和主義」の説明のところ。ここでは、ハーバーマスに則って、審議参加者の自由・平等という「抽象的な権利」を、政治的審議を成立させるための「具体的でも実質的でもない緩やかな前提条件」として“最初に”導入している。しかし、これではいくら「抽象的」とか「緩やか」といった形容詞を付けて条件を緩めたところで、リベラリズムと変わらなくなってしまっている。つまり、これらの「前提条件」を決めるのは誰なのかという問題が発生してしまうのだ。

 個人的には、理論の最初の状態・条件で、自由平等な個人を想定する必要はないと思う。ここは歴史的な事実をそのまま取り入れて、「歴史の偶然性」に任せてしまうべきだろう。そうなると、「強い者」が究極的な権限を持つことになり、その「強い者」が最初の審議を行うことになる。

 なぜこう主張するかと言うと、歴史的に「本当に強い者」が特定され、その人たちが究極的な権限を持つという事実を受け入れ、それを理論に取り入れなければ、全く現実的な基礎の弱い理論にならざるを得ないからである。ちなみに、歴史的にはその「強い者」は平民であり、全ての男子であり、全ての国民であった。したがって、理論の出発点はガチンコの権力闘争ということである。

 そうなると当然、「強い者」がリベラルな権利や制度を否定することも不可能ではない。しかし、それは否定しがたい事実であって、この危うい現実を認識することなしには、立憲主義やリベラリズムの重要性も理解できないはずだ。まさに、民主主義は「永久革命」なのであって、共和主義的な価値観や理解を定着させることが重要なのである
 
 
 さて、最後に自分の主張を中途半端に書いてしまったが、この本は意を決して4000円という大金を払った甲斐があったと珍しく思える本であった。

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