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 中島みち 『「尊厳死」に尊厳はあるか(岩波新書、2007年)
 
 
 医師が人工呼吸器を恣意的に外して殺人容疑で捜査された「射水市民病院事件」についての詳細なルポを通じて、「尊厳死とは何か」、「終末期医療のあり方とは」を明らかにしようとしている本。

 前半3分の2ほどが事件の詳細に当てられ、後半の3分の1ほどが尊厳死や終末期医療の現状と今後についての総括に当てられている。
 
 
 この一事件について詳しく記す理由として、著者は、この事件には現在の医療が抱える様々な問題が関わっているからだとしている。

 すなわち、 各診療科の風通しの悪さ、医療技術の進歩や社会の動きに伴う医療倫理の基準やルールの変化に鈍感な医師の独善とご都合主義、患者や患者家族との情緒的つながりに安住し「インフォームド・コンセント」も「チーム医療」もどこ吹く風といった昔ながらの体質、医師の恣意的誘導のままに決められていく患者家族の医師、医師が「脳死状態」と告げさえすれば直ちに患者の命を諦める家族の心模様と世の風潮、高齢者が自宅で死ねず病院が「姥捨て場」になっている現今の家族事情と医療経済事情、等々 (pp124-125)である。

 確かに、これらは大事な問題だし、この「射水市民病院事件」の背後に存在していた問題ではある。

 だけど、著者自身の膨大な取材が明らかにしたように、この事件に関しては、こういった“医療制度・医療文化に関わる一つ一つの問題”よりも、“当該医師個人の問題”に帰するところが大きい。医療知識や医療ルール・医療倫理に関して当然に想定されるべき最低のレベルを下回っているからだ。( 例えば「脳死」についての知識。)

 したがって、この「射水市民病院事件」を通して現在の尊厳死や終末期医療の問題一般に迫るという所期の目的は果たされていない。
 
 
 また、後半の3分の1で行われている総括的な話に関しても、「 安らかに見える死に方がなぜ“尊厳ある死に方”と言えるのか?」、あるいはさらに突き詰めれば、「 尊厳死はなぜ正当化されるのか?」といった、根源的で“それが全て”な問題が全く問われていない。
 
 
 そんなわけで、尊厳死や終末期医療を考える一つ事例を知る(「こんなことがあり得るのか!」)という点では有益だけど、(タイトルから想像される)尊厳死問題一般を考えるという点からするとあまりに不十分。
 
 
 そんなこの本を読んでるときにくすぶっていた尊厳死について根本的な疑問等を1つ2つ。

 思うに、尊厳死を主張する人たちというのは、①実は自殺を容認し、②実は年寄りの命の価値は小さい、と考えているのではないだろうか。

 でなければ、①'医療技術的に可能な治療をあえて拒否することが、②'死期が近い場合には許される、という主張を正当化することはできないはずだ。

 「“生きるか死ぬか”も、“いつ死ぬか”も、個人の自由だ!」と主張する限りにおいてしか整合性は保たれない。

 この2つの不誠実なダブルスタンダードは議論を混乱させるだけだ。

 はっきり言えばいいのに。
 
 
 それから、宮台真司みたいに“自己決定の貫徹”という観点からこの問題をも語ろうとする(と思われる)人たちには次のような批判を投げかける。

 すなわち、自己決定権というものはあくまで生きていることが前提となっている考えだ。したがって、その範囲外である「生きるか死ぬか」の問題にまで自己決定権の考え方を適用できると短絡的に主張することはできない。実際、産まれる段階では自己決定できない。生死に関しては次元が異なっているのだ。また、誕生が親の専権事項というのなら、デザイナー・ベイビーを創る親の自己決定権は保障されるべきなのか。

 人間には自己決定できないものの存在が付きまとう。

 それが、社会(階層)の固定化を防いだり、逆に社会(秩序)の安定化を作ったりしているのではないだろうか。詳しくは分からないけど、人類の進化もそれがあって初めて可能なのではないだろうか。

 思うに、(まだ試論的なレベルの主張ではあるけど、)生と死に関しては、何らかの“偶然性”、“人間の手の不可及性(※造語)”の存在が、必要なのではないだろうか。 (※ 妊娠中絶に関しては、どの段階から胎児をヒトと見るべきかという問題であるから、この主張によって直ちにプロライフ=妊娠中絶反対派になるということはない。)

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