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サイモン・シン『フェルマーの最終定理』 (青木薫訳/新潮文庫、2006年)
傑作。知的刺激に満ちつつ、ドラマチックな物語でもある。
「フェルマーの最終定理」は、17世紀、フェルマーによって、その証明を隠されたまま結論だけが世に出された。
「フェルマーの最終定理」とは以下のようなものである。
xのn乗+yのn乗=zのn乗、nは2よりも大きい。これに整数解はない。
(※ちなみに、n=2の場合は、「直角三角形において、斜辺の二乗は他の二辺の二乗の和に等しい」という“ピュタゴラスの定理”である。)
以後、幾多の天才たちがその謎に挑んできたが最終的な解決に至る者は一人もいなかった。それが、20世紀後半、ついにアンドリュー・ワイルズによって証明された。
この数学界の格闘の歴史――紀元前のピュタゴラスから20世紀のワイルズまで――を数学に無知な人でも分かるように説明し、なおかつ劇的に描いたのがこの本である。
その過程では、日本人数学者による重要な貢献(「谷山=志村予想」)も大きく扱われている。
そんなこの手の本は、自分のような文系人間の方がより楽しめる気がする。
なぜなら、第一に、数学的な愉しみに接する機会が少ない分、新鮮さが大きいから。第二に、無知であるだけに書かれている内容を疑うことなく受け入れられる(受け入れざるをえない)から。
最後に、驚きすぎて笑える数学を一つ。
素人は「フェルマーの最終定理」を解くのに、とりあえず一つずつ順番に数字を当てはめていくことを考えるだろう。けれど、もちろん数学の世界では、「全て」の数において当てはまることを証明しなければならないから、数字を一つずつ当てはめていくことは決して証明にはつながらない。
「とは言っても」と思ってしまうのが素人なのだが、次の文を読むとこの甘い考えも打ち砕かれる。
「 たとえスーパーコンピューターが何十年もかけて次から次へと個々のnについて証明していったとしても、無限に続くnのすべてについて証明することはできない。 (中略) たとえ1,000,000,000まで証明されたとしても、1,000,000,001も真である証明にはならない。 (中略) これがどれだけ危険なことかを理解するために、素数(注:1とその数自身の他に約数を持たない数。3とか19とか。)からなるある数列を見てみよう。17世紀のこと、数学者たちは次の数列を詳しく調べ上げ、どれもみな素数であることを示した。
31、 331、 3,331、 33,331、 333,331、 3,333,331、 33,333,331
(中略) 当時の数学者のなかには、これまでのパターンから考えて、この形の数はすべて素数になると思いたい者もいた。ところがこのパターンに次に現れる数、333,333,331(注:3億~)は、素数ではないことがわかったのである。
333,333,331=17×19,607,843 」(pp255-256)
この本を高校生のときに読んでいれば授業態度も成績もずいぶん違ったのではないかと何度も思った。けど、気持ちと現実は往々にしてギャップがあるもので、やっぱり大して違わなかったと思う。でも、少しは違ったであろうことは間違いないけど。
同じ著者が書いた『ビッグバン宇宙論』も読んでみたい。でも、単行本で上下巻(計3500円弱)はきつい。