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by ST25
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 高杉良 『労働貴族(徳間文庫、2005年)
 
 1984年に出版された本の再文庫化。実際にあった事実に沿って実名で描いている。ちなみに、タイトルの「労働貴族」とは、辞書によると、

労働貴族・・・一般の労働者よりも特別に高い賃金や社会的地位を得ている特権的な労働者層。また、大企業の労使協調的な労働組合幹部をさすこともある。(大辞林)

とのこと。しかし、この本で描かれる日産の労組のトップである塩路一郎は、貴族なんてものではなく、“天皇”である。(実際“塩路天皇”と呼ばれている。)彼は、夜な夜な銀座に繰り出し、豪華クルーザーで遊び、愛人を囲うという破天荒ぶりである。そして、労組の指導者が銀座で飲み、ヨットで遊んで何が悪いと公言してはばからない。今では到底想像もできないが、「解説」によると、昭和40、50年代ならそれでも変ではなかったとのことである。

 そして、そんな彼と経営側として戦うことになるのが、社長の石原俊である。社長就任当初は日産のエースとして社員の期待を一心に集めていたエリートである。この小説で特に焦点となる「英国進出問題」では、個人的な怨恨なども絡んで(というよりはそのために)塩路に反対され、「経営権の侵害」と思いつつも労使が合意するまでひたすらに耐えるという道を選ぶ。

 それから、もう一人の有力な登場人物が会長の川又克二だ。彼は英国進出に絶対反対ではなく、むしろ賛成に動きつつある。そして、会長であるのだから、当然経営側の人間のはずである。しかし、それにもかかわらず、労働トップの塩路との個人的な事情のために、あいまいながらも塩路側に味方するような発言や行動をしている。

 また、社員たちは一部に塩路の“独裁”に疑問を持つ者もいるのだが、言論の自由のない相互不信の環境の中で、団結したり、発言したりすることができない。

 そんな中で、最終的に英国進出が達成されるまでの過程が主に社長の石原の視点から描かれる。しかし、全ての登場人物にとって情けないその結末(英国進出に関する労使合意の要因)は、その後の日産の凋落を暗示しているかのようでおもしろい。
 
 
 この本は特に刺激的なストーリー展開というわけではない。それでも、普通では想像することさえ難しい一企業の内側を克明に知ることができるという点では非常に有意義だと思う。また、経営者ではなく労働組合側を描いているというのもあまり他にあるものではなく、ありがたい。また、組織において存在することが避けられない生身の人間関係というものの短所を分かりやすく見事に描いている。そして、これら以上のものではないが、最後まで飽きずに読める。

 城山三郎的な精神主義(?)もなく、経済(経営?)小説ならやはり高杉良が個人的にはいい。

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