by ST25
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村上春樹 『東京奇譚集』 (新潮文庫、2007年)
高層マンションから忽然と姿を消し、何事もなかったかのように帰ってくる男が出てくる「どこであれそれが見つかりそうな場所で」。いつの間にか勝手に移動してしまう腎臓の形をした黒い石を描いた「日々移動する腎臓のかたちをした石」。名札に異様なこだわりを見せ、名札をコレクションしている紳士的な話し方をする猿が描かれる「品川猿」。他2編からなっている。
どれも日常の中に異質な、異様なものが実に自然に溶け込んでいる様子を描いている。この点では、『象の消滅』(新潮社)という短編集に収録されている村上春樹の代表的な短編たちと同じだ。
『海辺のカフカ』とか『1Q84』のようなメッセージ性の強いものなら感想も書きやすいけれど、この手の短編の感想は難しい。
とりあえず、異質なものが自然に溶け込んだ非現実的な世界を、劇画的に大げさに書くのとは逆に、とても落ち着いて静かに、さも当たり前であるかのように書いている。そのため、その別世界にすーっと入り込んで、その別世界にどっぷり浸かって味わうことができる。
結局、そんなに深いことは考えずに、軽いファンタジーを楽しむような楽しみ方でいいのではないのかなと思う。
こういう味わい方ができるのも作者の筆力が確かなものだからこそであるのは間違いないところだし。
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