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 奥田英朗 『沈黙の町で(朝日文庫、2016年)

 

 『イン・ザ・プール』、『空中ブランコ』、『サウス・バウンド』といったコミカルな登場人物たちの小説はいろいろ読んだことのある奥田英朗の新刊。裏表紙の紹介文によると、

北関東のある町で、中学二年生の名倉祐一が転落死した。事故か、自殺か、それとも・・・? やがて雄一が同級生からいじめを受けていたことが明らかになり、家族、学校、警察を巻き込んださざ波が町を包む・・・。地方都市の精神風土に迫る衝撃の問題作。

 とのこと。おもしろおかしな小説で手腕をいかんなく発揮してきた筆者が、「地方都市でのいじめ」という言葉や表に現れない微妙なものを多々含む難しい題材をいかに描くのか興味をもち、読んでみた。



 当然だけどおふざけは一切なく、至ってマジメなミステリーになっている。出てくるのは、自殺した中学生。その友達や同級生。その双方の親。学校の担任や校長。警察官と検察官。取材する新聞記者。つまり、関わりがありそうな人はほぼすべての人がしっかりと描写されている。

 話は2つの主題を追っていきながら進んでいく。一つは転落死の真相。自殺なのか、脅迫による殺人なのか、事故なのか。もう一つはそれぞれの人物の描写。転落死に至るまでの中学生たちの微妙な人間関係も徐々に明らかになるし、転落死発覚後の動揺する関係者たちの描写もある。


 最初に言った通りおふざけな話ではないけれど、だからといって勧善懲悪で一件落着してカタルシスを感じられる話でもない。何か一つのことに原因を帰すこともできないし、誰か一人だけが悪いわけでもない。そういう中で悲劇が起こってしまい、その悲劇の処理も一筋縄できれいに気持ちよくは終わらない。そこが逆に、実にリアルで、本当にあってもおかしくない一つの話が描かれていると感じさせる。

 誰もが現実の複雑さ、割り切れなさは体験して知っている。にもかかわらず、ニュースを通じて知る遠くの別世界の出来事に関しては、なぜか勧善懲悪のヒーローもののドラマでも見ているかのように、誰かを悪者に仕立ててその悪者を徹底的に叩いて満足してしまう。ネットが普及した現代では匿名での批判が可能になり、その悪者叩きはより激しさを増している。

 そんな現代の観客的立場の「自称ヒーロー/ヒロイン」たちに対して、真剣に問題提起しているのがこの作品だと思う。

 この小説の登場人物たちは、皆、自分のことばかり考えている。それは友達を裏切りたくない正義感から出たものもあるし、我が子を信じたいという親心から出たものもあるし、自分の地位を守りたいという保身の心から出たものもある。

 それを人間の弱さに端を発するもので仕方ないと考えるか、どんな状況であれ冷静な客観的な判断をするべきだと批判的に考えるかは、意見の分かれるところだろう。

 ただ、断片的な情報だけで全てが分かったかのごとく善悪を判断し「悪者」を断罪している「自称ヒーロー/ヒロイン」も、自分と関係がない安全な場所に自らを置いて無責任に放言しているだけなら、実は、自分のことを絶対視している、つまり自分のことしか考えていないと言えなくもないのではないかと思う。



 そんなわけで、至ってマジメに「いじめ」をめぐる微妙な人間関係、人間の心理や行動を描いているのがこの小説だ。ミステリー的に話に引き込まれてぐいぐい読み進められるけれど、(interesting的な意味での)面白さというようなものはあまりないかもしれない。



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