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 早野透(インタビュー) 『政治家の本棚』 (朝日新聞社、2002年)


 本書は読書家向けの雑誌「一冊の本」で連載されていたものの中から選び出された43人の政治家へのインタビューが所収されている。その43人には中曽根康弘や竹下登など一時代前の政治家から、小泉純一郎、岡田克也といった現在活躍している政治家、そして、石原伸晃、志位和夫、枝野幸男という将来が期待される政治家まで、時代も党派もまたいで様々な人が包括されている。しかし、本書はただ著名政治家を集めてまとめたのではなく、43人を生まれの古い順に並べ、かつ、それを3つの時代で区切っている。そして、それぞれの時代の時代潮流と読書傾向についてインタビュアーの解説が付されている。

 本書ではまず、インタビュアーの読書・関心の幅広さがインタビューの中で垣間見える。そして、3つの時代の初めに付された解説では、自己の青春時代以外でも全く変わることのないインタビュアーの時代を追い続ける観察力・洞察力がいかんなく発揮されている。

 このため、本書を最初から最後まで読むことによって、日本の書物史・社会史・政治史を概観することができるようになっている。つまり、一冊の本にまとめた効果によっておもしろさが引き出されているのだ。

 以下では、個々の政治家の中で特に印象に残った二人についての感想と全体的な感想を書いていきたい。

 まず一人目。加藤紘一のインタビューは好感が持てた。学生の頃は安保闘争が正しいのかどうか真剣に悩み、マルクスを読み、新安保条約を読み・・・、と右往左往する。また、読書は「読みながら考えちゃうほう」で「頭の中は、お雑煮状態」だと。他のほとんどの政治家があまりに自己に引き付けて本を読んで自己満足している中にあって、常に留保をつけながら真剣に納得いくまで考えよう(読もう)とする姿勢は貴重だ。例えば、中曽根康弘のカントとヘーゲルの理解なんて特にひどい。彼は「カントとかヘーゲル。耽読しました」と述べ、カントと自分の政治の骨格との同一性を主張する。少々長いが引用しよう。

 「限りない空を仰いで、しびれるような感動を覚えるものは、天の星と我が内なる道徳律だ、カントはそう言っていますね。
 我が内なる道徳律というのは、これは相対主義を超えた、普遍性を持ったものを言っている。~それが新保守自由主義になっているわけです、政治家として。」(p31)

 こんなことを一般の人が言っていたら「危ない人」に思われそうだがそれはさて置き、そして、カントの理解はとりあえずこれで正しいとして、単純な一点を指摘したい。すなわち、「ヘーゲルはどこへ行ったのか?」と。カントが誰もが到達可能な“普遍的道徳”の存在をあまりにお気楽に前提としたことに対して、ヘーゲルは自覚的でありそれを(今からすればそれでも不十分だが)批判したはずである。中曽根康弘は自分に都合の良いカントの思考方法だけを切り取って、ヘーゲルの主張は全く組み入れず、そして、カントで言うところの“普遍的な道徳”を自分の都合の良いように(つまり、自分の道徳)勝手に解釈してしまっているのだ。少なくとも現代のほとんどの子どもたちは、自分の価値観を絶対視して他人の気持ちを想像できない人は「ジャイアン」や「独裁者」みたいな幼稚な人だと教わっているだろう。

 結論は明らかだ。確かに加藤紘一の決断力のなさは問題だが、ジャイアンはもっと問題であり、加藤紘一の慎重さは賞賛に値する、ということだ。



 さて、もう一人の印象に残った政治家として小泉純一郎を取り上げたい。ここでは、

 「いやなことがあると、じゃ、あす特攻隊で飛び立つのとどっちがいいかと較べてみるんです。」(p268)

 「戦争は二度としちゃいかんという思いは強いですよ。戦争するぐらいなら、どんな我慢もできるんじゃないか。」(p269)

 という発言は無視しておく。

 さて、ここで問題にしたいのは小泉純一郎の読書内容について。司馬遼太郎など歴史物について散々話を聴いた後、インタビュアーが「大学時代は、ほかに?」という質問を投げかける。それに対する応えは「だから時代小説。」というもの。また、「慶応大学卒業後はロンドンに留学したのでしたね?」という質問には、「この時期、読まなかった。むしろ音楽のほうだったね。コンサートに通って青春を謳歌した。」と・・・。本書に収められてる43人の政治家の中でここまで社会派・学問系の本が出てこないのは彼ぐらいだ。今話題の『男子の本懐』(城山三郎)で自分を浜口雄幸に見立てるなら、「もっと勉強しなさい」と親が子に思うような気持ちで切に思ってしまう。



 最後に、政治家の読書について全体的な感想を一つ。それは司馬遼太郎ばかり読んでないで学問もやったらどうだということ。学問系で結構名前の出てくる人を挙げると、マルクス、カント、丸山真男、松下圭一くらい。他に影響力の大きそうな人を挙げれば、ウォルフレン、ヴォーゲル。なんとも微妙だ。また、インタビューでは人によっては大学院で学んだときの話も出てくるが、ほぼ全てが“古き良き時代”の大学院。学問はしていない。


 この状況を、勉強をしなくても社会で何とかなると見るか、それとも、やっぱりどうにもならないと見るか―――。



〈前のブログでのコメント〉
 この類型論はオリジナルなのでしょうか?なかなかおもしろく、且つ適切な類型ですね。

 あえてこの類型に足すとすれば、近年、そして今後増えると思われる「組織型」でしょう。マスコミ人のサラリーマン化は避けられない趨勢のように思います。
commented by Student
posted at 2005/02/06 00:54
記者の理念形として

①高度経済成長型(政治部中心)
政治部絶対主義。読売のナベツネ。毎日の岩見・岸井。評論家の宮崎・三宅・森田・早坂(逝去)など。頭は悪くない(ナベツネはかなり頭はいい。)が、抽象論が好き。イケイケどんどんの政治家をそばで見てきただけあって何かにつけ『今の政治家は・・・』と精神論をぶつ。経験値は極めて高いが、あまり分析的ではない。政治家と仲がいいだけに私情が入る。

②現場現実主義型(社会部中心)
読売をやめた社会部軍団の大谷・本田。朝日の本多・筑紫。
感情論が好きだが、社会に対する問題意識は極めて高い『現場現実主義の意見なんだ』と割り切って読むと有用。特ダネを追求する傾向アリ。

③知的リベラル型
朝日の早野・船橋、日経の田勢。文章は常に冷静。常に権力に批判的。原因として、朝日はエリート主義的な社風が影響しているのかもしれない。反権力としての権力。日経は勢いはないものの、分析的。

④とにかく保守型
いわずもがなsankei。HPに『保守主義』について延々と語る中々凄い新聞社。たぶん理念もあるだろうが、『差異化』を図るというある意味経営戦略だろう。

⑤週刊誌型
激烈に社会をぶったたく。意図は大衆を煽るというのが根本だろうが、結果的に社会の欺瞞をボコボコにしている。記者クラブに入れない上に、売り上げ部数が進退を決定するのでとにかくバイタリティはある。『ジャーナリスト』としての参入障壁は大新聞社に阻まれている。

②+③(+⑤)あたりがバランス取れていていいと思われます。ということで朝日は好きです。原因として『エリート主義』とか適当に言ってしまいましたが、正確に分析しましょう!!
commented by morita
posted at 2005/02/05 13:39
おおー!!!実はmoritaさんがご指摘された朝日新聞が知的で個性的なジャーナリストを輩出しているということを次の記事で書こうと思っていたのです。

 仕様がないので戦略をばらしますと、今回の記事はその前段階での布石でして、そのために早野透を誉めるだけでその出自を明かさなかったのです。そして、次回で同じく朝日新聞の記者であった人の論文を肯定的に取り上げ、朝日の記者を2人続けたところでその優越性を論証しようと思っていたのです。

 理由は分かりませんが、朝日が自立的なジャーナリストを生み出しているのは間違いありません。他紙の場合、本を出版するにしても大体は「○○新聞社会部」とか「△△新聞□□取材班」とかいう組織が主体になっています。
commented by Student
posted at 2005/02/05 01:39
追伸
早野透と同じ朝日新聞社の人間で船橋洋一がいます。2人とも日本のジャーナリストの中ではかなりの知的レベルを持っています。朝日系のジャーナリストは他社に比べてレベルが高く好きです。
commented by morita
posted at 2005/02/04 23:32
司馬遼太郎の話が非常に多いというのは結構嫌悪感を覚えます。大体、過去の英雄の話を読んだ所で判断力や分析能力が鍛えられる訳ではありません。個人の信念と経験こそが判断力に影響を与えると思いますね。YHさんが前に書いていたように個人と社会の問題は別だとおっしゃってましたが、今回は、『時代が全然違う』という横軸への誤解が問題を複雑にしていると思います。感覚的に共感できるといった割り切った楽しみ方ならいいとは思いますが・・・。
commented by morita
posted at 2005/02/04 23:16
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