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 石川真澄 「メディア――権力への影響力と権力からの影響力」 (『レヴァイアサン』7号、1990年)


 本論文は昨年逝去された石川真澄が朝日新聞の記者だった頃に書いた20頁弱の小論である。基本的な主張を冒頭の要約から引用すると、「『マスメディアの影響力』は通常思われている程大きくないこと、むしろ逆に、メディアが権力集団から(中略)影響を受けやすい構造となっている」ことを実際の記事と報道を基に論証することにある。

 このように主張する筆者のマスメディア観は「文字通り伝達のメディアであって、影響力の主体となる他の集団(政党や官僚など)とは異なる」ものということになる。

 以下ではその論旨をやや詳細に追っていく。

 本論ではまず、メディアの議題設定能力が検証される。そこでは初めにD.ウィーバーの著書から「プレスの報道のピークが、実際の出来事や争点のピークよりもかなり前にくる場合が多い」というアメリカでの状況についてのファンクハウザーの研究を引用する。そして、その後に朝日新聞の記事データベースを利用して日本について検証している。その結果、「日本の新聞の伝える記事は議題設定の能動性に欠け、実在する事象の受動的な反映である傾向が強い」という結論を導いている。

 そして、以上の結果から、「一般に事象内容を新聞記者にもたらすソースへの働きかけより、ソースからの働きかけに受動的になりやすい傾向を新聞が持つ」のではないかという仮説を立て、「メディアに情報をインプットするソースと新聞記者との関係」(=影響力の向き)の検証を「容易ではない」としながらも試みている。

 影響力の向きの検証は、「政治に関係する記事の年間ジャンル別本数」と「各部の記者クラブ配置」から行われている。そして、これらから、「記者たちの取材源が政官各機関にどんなに強く依存しているか一目瞭然」だとする。つまり、「マスメディアからの政党や官僚への影響力よりも、政党や官僚の側からのマスメディアに対して及ぶ影響力のほうがはるかに大きいという構造のできあがっている」ということである。

 また、筆者はこのあたりの事情について共同通信社の元社長である原寿雄の「発表ジャーナリズム」という言葉を用いている。つまり、「権力者や権力機関が洪水のような発表で記者たちを発表以外の事象に目を向け難くし、そのなかにジャーナリズムへの操作を織り込んでいく現象」のことである。

 そして、論文の最後では、マスコミ人としての筆者の規範意識が簡単に述べられる。

 以上が本論文の全体の流れとその主張である。



 このような日本のメディアの状況をどう見るべきだろうか? “第4の権力”としてのメディアの役割に期待したいならば、アメリカのような議題設定能力を有したメディアを目指すべきだろう。しかし、私は石川真澄が暴き出した日本のメディアのあり方を肯定的に捉えている。

 というのも、以前、このブログで読売新聞の社説を批判したが、他紙・他テレビ局も似たような知能レベルであることは確実である。そんな知能レベルの人たちが選別した議題(アジェンダ)や情報を与えられても消費者としては“百害あって一利なし”だ。それなら、メディアは情報伝達だけを行っていてもらった方が良い。こう考えるからだ。(もちろん、見識のある人の情報なら話は別だが)

 この点、NHKは“公正中立”というありもしない幻想をあえて協会の報道方針に掲げ、報道内容が問題なきよう最善を尽くし、権力側である政治家(与党限定)の先生へ自らご説明申し上げる、文字通りの“メディア(媒体)”に徹した望ましい報道機関である。そんなわけで、私は「ニュース9」をよく観ている。(ただ、“政府広報”を一時間もぶっ続けに見るのはさすがに疲れるから「ニュース10」はあまり観ない。)



 最後に、論文についてコメントをしておきたい。すなわち、石川真澄が主張するように議題設定能力は受け身だとしても、そこから先の評価や判断においてメディアの果たす役割が大きい場合には、メディアの役割は一概に小さいとは断定しきれないのではないか?ということである。この点は論文の中では触れられていない。ただ、私が断定したようにメディアの知能が低い場合には結局、“発表ジャーナリズム”の下で、気付かぬうちに政府や企業の意のままになっている可能性が高い。

 思えば、そもそもメディアは政府や企業よりも情報や専門知識で劣っているわけであるから、文字通りの“メディア”として行動する以外に道はないのかもしれない。

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