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庄司薫 『赤頭巾ちゃん気をつけて』 (新潮文庫、2012年)
青春小説の傑作が、「あわや半世紀のあとがき」を新たに収めて新潮文庫で刊行された。中公文庫のものも今でも手に入るのに「どうしてまた?」と不思議な気持ちではあるけど、かなり好きな小説の一つなだけに新聞広告を見て素直に嬉しく思った。そして、買って、久しぶりに読んでみた。
以前も一度感想を書いたけど、さまざまな理想と現実、あるいは、本音と建前との間で葛藤しながらも、「だから何なの?」、「それに何か意味があるの?」と開き直ることなく理想や建前をがんばって守り抜こうとする男の子を描いている。
「最新の」フランス思想を語れたらカッコイイ。けど、「ぼく」はシェークスピアだの『椿姫』だのといった古典的なロマンスで涙してしまう。 あるいは、受験に向けての勉強に少しでも時間を費やすのが賢い。けど、「ぼく」は「自主性」の大義のもとに授業や担任の先生を選ぶのに丸一日を費やす日比谷高校の仕組みに愛着を持っている。 また、自分を誘っていると思われる美人な女医さんを前に強姦魔になりたいと頭の中では強く思う。けど、「ぼく」は黙って目を閉じる。
そんな情けない「ぼく」だけど、ものすごい痛みを伴いながらも小さな女の子にやさしくされたというささいな出来事に、とってもとってもうれしく感じる。
そして、覚悟を決める。理想を捨てずに理想を実現しようと。「 のびやかで力強い素直な森のような男になろう。 (中略) この大きな世界の戦場で戦いに疲れ傷つきふと何もかも空しくなった人たちが、何故とはなしにぼくのことをふっと思いうかべたりして、そしてなんとはなしに微笑んだりおしゃべりしたり散歩したりしたくなるような、そんな、そんな男になろう・・・・・」(pp178-179)と。
人は、成長するにつれ、色々なことを知るにつれ、様々な現実を知るようになる。その真っただ中で苦しむのは若者たちだ。そんな若者たちを励ましてくれる小説。 そんな苦しみがもはやなくなった大人たちには、理想と現実の葛藤をいかにして乗り越えてきたのか(または、いかにして捨て去ってきたのか)を問いかける小説。