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小林多喜二 『蟹工船・党生活者』 (新潮文庫、1953年)
現代日本の状況と共通点があるということでけっこう話題になっている作品。(「蟹工船」の方が。)
プロレタリア文学を代表する小説。「蟹工船」(全文)は1929年に、「党生活者」(全文)は1932年に書かれている。著者の小林多喜二は1933年に警察での拷問により29歳で死んでいる。
「蟹工船」は、北の厳寒の地で蟹を獲り加工までする船(蟹工船)の中という閉塞的な状況下で限界まで酷使される労働者たちの惨状と目覚めを描いている。
確かに、ある大義の下、大企業や国によって労働者が酷使され搾取されて辛い状況にあるという相当大雑把な枠組みでは現代と共通しているかもしれない。
けれど、あくまで「相当大雑把な枠組みで」にすぎず、「取り立ててこの作品が」ということは全くない。
ブームとはそんなものなのだろう。
けれど、いずれにしても、これだけ酷い労働の惨状を描いた作品が(社会に出ていない学生以外にも)ある程度の共感を受けるということは、それなりの土壌があってこそであることは間違いない。
この事実に気付かせてくれるヒントはこの小説には書かれていない。そして、この事実をどう受け止めるべきか?も80年前に書かれたこの小説には書かれていない。
なお、この「蟹工船」はプロレタリア文学だけあって社会主義を理想化しているところがある。けれど、この作品で描かれるのは、限界まで追い込まれた人間の自然的反応として十分にあり得るものであるから、その主義主張に関係なく誰であっても正面から受け止めるべき小説になっている。
ちなみに、労働者の惨状を描いた「蟹工船」は、兵隊の惨状を描いた野間宏『真空地帯』と似ている。また、共産主義へ向けての非合法な政治活動を描いた「党生活者」は、民主主義へ向けての非合法な政治活動を描いたジョージ・オーウェル『1984年』と似ている。