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 太宰治 『斜陽(新潮文庫、1950年)


 母、息子、娘の3人からなる旧上流階級一家のそれぞれの滅び方と、上流とは対極な生活をし貴族を嫌う流行作家の人生を描いた小説。

 かつての貴族流の振る舞いを頑なに守る母。偽悪的に貴族的な道徳を消そうと麻薬やアルコールや女に溺れるが、その実、そのような生き方に楽しみを見出せない息子。古い道徳が廃れた後は革命と恋が新たな道徳になるとお上品なお勉強から学ぶが、革命も恋もいまいち上手くは行えない娘。嫉みからか貴族的なものをけなし、あえて堕落した生活を送るが、そのくせ思想や文学にやたらと通じている作家。

 そんな精神的な依りどころのない4人がついには破滅へと至る。

 この小説が書かれたのは戦争が終わって2年後で、その頃であれば、支配的なイデオロギーの急変という人々を不安定にさせる要因が切実なものであったのかもしれない。

 ただ、支配的な思想や道徳のない現在に生まれ育った身としては、そんなどこかから与えられるような道徳にすがろうとも思わないし、そもそもそんなものがあること自体も想像しにくい。

 そんなわけで、一つの話としてその意図するところは頭では分かるけれど、いまいち切実さをもって読むことができない小説だった。
(もちろん、現在とは時代状況が違うものでも、その書き方によっては切実さを伴って読めることもあり得るけれど、この小説ではできなかった。)



 

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