by ST25
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唐十郎 『佐川君からの手紙 〈完全版〉』 (河出文庫、2009年)
日本人の青年がパリでオランダ人女子学生を殺害し、その人肉を食した「パリ人肉事件」を基にした1982年の小説「佐川君からの手紙」などを収録している。 表題作は芥川賞受賞作。
この事件に関する人々の関心は圧倒的に「人肉食」のところに向くけれど、この小説では、「その相手が白人女性だった」ところに注目している。
そして、「白人女性」の「白」を様々な形で象徴的に用い、「色の着いている」日本人女性をそれとの対比で登場させている。
「白」は、純白で無垢な色であり、さらに無色なだけに人々の勝手な妄想や憧れの余地を与えてしまう。 それに対して、「色の着いた」日本人女性は、その妄想や憧れを現実へと引き戻す役割を果たしている。
しかし、その日本人女性が彼の前から立ち去ったとき、彼を現実へと引き戻すものはなくなってしまう。 そして、その妄想や憧れの極致が殺害であり食肉であった。
もちろん、究極点としての殺害や食肉は特殊であるにしても、日本人の西洋人への憧れやコンプレックスは(特に昔は)強固なものである。 その点、特殊な事件を題材に普遍的な事象を文学的に描いている小説だと言える。
そして、その文学的な表現はそこそこ見事。 人肉食の用い方に関しては肩透かしを喰らうけれど。
ちなみに、表題作以外は冗長で退屈。
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