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 グレッグ・イーガン 『ひとりっ子(山岸真編訳/ハヤカワ文庫、2006年)
 
 
 『万物理論』で大きな感銘を受けた割に他の本をほとんど読んでいない現代の最高峰SF作家イーガンの日本オリジナル短篇集。

 科学的・数学的な説明は、「編・訳者あとがき」でも指摘されている通りハード目なために全く理解できていないところもあるけど、そのへんは何となくのイメージで読み進めた。

 それでも、展開されるドラマや、テーマである自己同一性(アイデンティティ)に関する洞察に関しては十分楽しめた。 (とはいえ、『万物理論』のおもしろさからするとかなり見劣りするけど。)
 
 
 “展開されるドラマ”のおもしろさから好きなのは「ルミナス」。

 いわば、2+2=4の「数学」と2+2=5の「オルタナティブ数学」とのせめぎ合いの話。

 ちょっとした宇宙戦争。しかも軍事とかの力による勝負ではなく、もっと原理的な次元での勝負。
 
 
 “テーマである自己同一性”という点に関しては、各作品でいろいろな観点から切り込まれていて一つを選びがたい。

 SF的な設定(特に脳科学的な進歩)によって「自己(自我、意識、脳)」にいろいろな改変が加えられ、ときには他者の「自己」との接合や交換もされ、まさに反実仮想の状況の中で改めて「自己の同一性を保つもの(アイデンティティ)とは何か?」について問いかけられている。

 したがって、設定はSFだけど描かれている内容は現世的に受け取ることができる。

 それが端的に現れているのが次の文。薬によって特定の意識や信念を自由にコントロールできる世界を描いている作品の最後の方に出てくる。

自分に忠実であるとは、相いれない衝動のすべてとともに生き、頭の中の数多くの声に悩まされ、混乱と疑念をうけいれることをいうのだろう。そうするには、もはや手遅れだ。揺るぎない確信をもつことの自由さを味わったわたしは、それなしでは生きられなくなっていた。 (p36)

 もちろん、ここでは、「揺るぎない確信をもつこと」は薬によって成し遂げられている。

 けれど、そんな薬がない現代でも「揺るぎない確信」を楽で胡散臭い手段によって「獲得」している(と思い込んでいる)人はいくらでもいる。

 であるなら、作品中に出てくる「人の命はなんら特別なものではないという信念」を手に入れられる薬は、(もし開発されても)果たして問題があるだろうか?

 といった具合に思考が促される。
 
 
 
 この本は『万物理論』ほどのおもしろさはなかった。

 けど、だからこそ逆に、イーガンの他の長篇作品を読んでうっぷんや物足りなさを解消したい気分に駆られている。

 けど、今読むべき(読みたい)本のストックはいっぱいあるから我慢しなければ・・・。

 なんせ、年末年始に集めた今のストック分を読み終わらないと、年末年始から抜け出せないような気がするから・・・。

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