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 ジョゼフ・S・ナイ 『ソフト・パワー』 (山岡洋一訳、日本経済新聞社、2004年)

 最近の国際政治では、主権国家の力を重視するリアリズムのみが国際政治を見る唯一の視角になったかのような感さえある。思えば、平時において理想主義的な思想がはやり、戦時において現実主義的な見方がはやるのは、歴史が教えるところである。しかし、結局どちらか一方のみが普遍的で正しいことはないというのも、また歴史の教訓である。それならば、パワー・ポリティクスのみに視線が集まり、時としてそれのみが真理だと思われがちな現代において、それとは異なる点に注意を払っておくこともまた必要なことである。

 本書は、ハーバード大学教授であり、クリントン政権時代に国防次官補を務め、リアリズムの観点も持ち合わせた代表的リベラリストである著者が、(国際関係論における)リベラリズムの立場から最近のアメリカの行動に懸念を抱きつつ、著者が生み出した概念であるソフト・パワーについて詳細に論じたものである。


 ソフト・パワーという言葉は、「非軍事的なパワー」というような使用法も散見されるが、この概念の提唱者である著者・ナイの定義では、ソフト・パワーとは「強制や報酬ではなく、魅力によって望む結果を得る能力」、あるいはより具体的に言えば、「自国が望む結果を他国も望むようにする力であり、他国を無理やり従わせるのではなく、味方につける力」のことである。具体例としては、人権や文化や政治制度などが挙げられている。また、著者は国際関係を、軍事・経済・トランスナショナルの三次元のゲームとして捉え、それぞれを(アメリカ)一極支配・(アメリカ,EU,日本,中国等の)多極構造・力の分散と分析している。そして、これらの枠組みを踏まえた上で多くの実例を挙げながらソフト・パワーの重要性を説き、アメリカはハード・パワーとソフト・パワーのバランスを改善してスマート・パワーを目指すべきだと主張する。

 パワー(力、権力)という概念については今まで様々な考察がなされている。ウェーバー、ダール、バラッツ=バクラック等々。ナイのソフト・パワーもこれらに連なる一つの視点を提供するものであるのだろう。しかし、ソフト・パワー-ハード・パワーという類型が妥当であり有意義だとは確信ができない。疑問なのは、ソフト・パワーの概念では力の効果が(力を及ばされる)相手側の“選択”に完全に依存している場合があることである。このような場合に、(力を及ぼす)自分側に(ソフト)パワーがあると言い得るだろうか。そもそもパワーとは力を及ぼす相手側との関係性を前提にして成り立っている。つまり、力を行使する自分側のパワーの存在・行使の“結果”として、相手側に何らかの変化をもたらすことができた場合に初めて、パワーが存在していたと言い得るのである。そうは言ってもしかし、ソフト・パワーは魅力によって相手側を動かしている、あるいは相手側の選択を導いている、とも確かに言える。どっちとも間違ってはなさそうに思える・・・

 概念上の問題は措いておいて、著者も述べているように、ソフト・パワーはハード・パワーほどには政府が管理できるものではない。それでも、政府が影響を及ぼせるものとして広報外交や国際公共財の提供等が挙げられている。だが結局、日本のアニメのように他国の人を惹き付けるかどうかは偶然的な要素が大きい。

 また、ソフト・パワーとハード・パワーの違いは簡単に言えば、パワーによって動かされる側の心理的な態度の違いということになるのではなかろうか。つまり、好意的に積極的に動くのと、消極的にやむを得ず動くのとの違いである。これらは結局のところ、他国の人たちから嫌われずに、好かれろというだけのことではないだろうか。

 視点自体は正しいと思うが、ソフト・パワーという概念や言葉については、理論的な不完全さが解消されるまで留保を付けざるを得ない。

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