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 宮川公男、大守隆編 『ソーシャル・キャピタル』 (東洋経済新報社、2004年)

 本書は、ソーシャル・キャピタル(以下、SC)に関わる論争を巻き起こした第一人者であるロバート・パットナムが、近年のアメリカでテレビの影響等によりSCが衰退していると論じた著名な論文「Bowling Alone」の他、数名の学者によるSCに関する論文が所収されている。具体的には、SC論の流れや、SCの経済学的分析や、信頼についての分析等で、各々別々の学者による論稿だが、この一冊でSCについて包括的に学ぶことができるようになっており、優れた編著書である。


 SCは、「広く人々が作る社会的ネットワーク(=構造的次元)、そして、その中で生まれる、共有された規範、価値、理解、信頼(=文化的次元)を含むものであり、そのネットワークに属する人々の間の協力を推進し、共通の目的と相互の利益を実現するために貢献するもの」と定義される。SC論の議論を巻き起こしたのは、パットナムの1993年の著書『Making Democracy Work』(邦訳『哲学する民主主義』)で、そこでは、イタリアの南部と北部の比較からSCの存在の有無が民主主義のパフォーマンスに影響を与えると論じられている。このような抽象的で文化的な概念の存在を学問的に実証できるかは疑問が残るが、“科学化”が進んだ政治学の中で、影響力を有する数少ないリベラルな(含意を大いに含む)概念だけに砂漠の中のオアシスのごとく人々の関心が集まっている。そして、SCが経済パフォーマンスにも好影響を与えるとする主張も提出されている。

 本書の個々の論文の中では、興味深い分析や視点がたくさん出されている。例えば、アスレイナー論文での信頼の分類(普遍化信頼・特定化信頼など)は、山岸俊男『信頼の構造』(東大出版会)と併せて読むとおもしろそうだ。しかし、ここではSC全体について一つだけ触れるに止めておこう。

 SCは前回の記事で取り上げたソフト・パワーと同様、規範的にはリベラルな概念だと思われることが多い。しかし、SCは共同性や規範の重視など、コミュニタリアニズム(共同体主義)と近い特徴を持っている。それでもSCをリベラルな概念だと捉えるなら、両者の違いはどこにあるのだろうか。その答えは、一般的に言われるように、自分で選択したか否かという点に求められる。つまり、リベラルな概念としてのSCを構成する社会的ネットワークや組織は自発的に入ったものであり、他方、コミュニタリアニズムで重視されるのは地域共同体や家族など非自発的な集団である。ここから、SCの特徴的で本質的な一つの側面が明らかになる。
 SCはその存在場所を考えると多数の人を巻き込む社会的で集合的な概念としてイメージされる。それは、直訳すれば「社会資本」となるその名前にも表れている。しかし、コミュニタリアニズムとの比較で見たように、SCの前提であり要点は、やや極論すれば、個人の内実にこそ存在している。詳しく述べると、SCは社会の中で複数の人々の間での相互の関係性の中で初めて成り立つものだと考えられることが多いし、定義からしても複数の人々の間で成り立つものだという前提がある。つまり、ここでは社会全体のみに焦点を当て、社会総体での信頼や規範やネットワーク等の量が想定されている。しかし、それでは信頼や規範を支える要因(自律的な個人なのか、共同体の圧力なのか)が明らかではない。したがって、これらから個人に基礎を置いてSCを再考すると、法やルールや規範の遵守等を身に付けた近代的な人間の合計の量こそがSCだと言えるのではないだろうか。そして、このように捉えなければリベラルな概念としてのSCという考えは成立し得ないように思えるのである。

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