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水木楊 『誠心誠意、嘘をつく――自民党を生んだ男・三木武吉の生涯』 (日本経済新聞社、2005年)
戦中は翼賛選挙に反対し、戦後は鳩山政権樹立に尽力し、晩年には最後の命をかけて保守合同による自由民主党の誕生を演出した政治家・三木武吉の熱い人生を描いた小説。
主人公が三木武吉であるから、鳩山一郎およびその周辺の人たちに好意的で、吉田茂およびその子飼いたち(池田勇人など)に厳しく書かれている。また、小説であるから事実の誇張・勝手な推測などもしばしば見られる。
しかし、それらを割り引いたとしても、三木武吉の一徹さは全く揺るがない程度にずば抜けている。
印象深い逸話はいくつもある。
例えば、戦中、三木武吉が中野正剛、鳩山一郎と共に翼賛選挙に反対し、翼賛会の非公認候補として選挙戦を戦った話である。戦中にどういう行動を取っていたかは当時を生きた要人を評価する重要な里程標である。
また、若いうちに囲った妾たちは全員、彼女たちが歳を取っても面倒を見たというのも、彼の他人に対する誠実な態度を表す逸話と見ることもできるだろう。
ただ、三木武吉が、時には大嘘をつくような権謀術数を駆使する策士であったことは紛れもない事実である。これは、敵方からすれば全く信頼の置けない政治家という評価になるのも当然である。
しかし、にもかかわらず、三木武吉が評価されるべきだと思うのは、彼の行動原理による。
すなわち、散々苦労して作り上げた念願の鳩山政権を倒してでも保守合同を成し遂げようとした行動に見られるように、三木武吉は大義に従って行動する政治家であった。
この、裏方に徹するが、かといって、自分の影響力を維持・拡大するために動くのではなく大義のために行動するというところは、現代で言えば、野中広務が一番近いかもしれない。(野中広務の場合、その政治手法に対する批判もあったが、その大義も時代遅れの感があったが。)
この点、「政治家であるからには首相を目指すのは当然」と豪語してはばからない政治家たちには信頼が置けない。
自らの“生命”をかけて政治をするとは何かについて、現在の政治家たちも三木武吉に学ぶところは大きいように思える。
余談だが、それにしても中野正剛の熱さも凄まじい。三木武吉もそうだが、この政治家ももっと世間に知られてしかるべき人だ。