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森政稔 『変貌する民主主義』(ちくま新書、2008年)
民主主義をめぐる現在の最新の議論状況(政治理論・政治哲学上の)を1960~70年代の世界(民主主義)の質的変化を起点に一つながりで論じ・紹介している力作。
中学の「公民」、高校の「政治経済」レベルの民主主義理解をし、民主主義を絶対の正義だと思い込んでいる人たちにこそ是非知ってほしい内容。(著者も「はじめに」でちょっと触れているとおり。)
なんだけど、それにしては内容・説明が難しい、あるいは、不親切。前提知識があれば何とか本文を補いながら読めるけど、そうでないなら、これだときっと届かない。( この手の分野の本をいくらかは読んだことのある自分も論理のつながりや説明が分からないところはあった。)
なお、扱われてるのは、大きくは、経済的自由主義と民主主義、差異・アイデンティティと民主主義、ナショナリズム・ポピュリズムと民主主義など。他にも、多元主義的民主主義/利益集団民主主義、討議民主主義、闘技民主主義、新しい市民社会論、ガヴァナンス論、民主主義の主体の問題など、主だったところは大抵(一連の流れの中で)網羅されている。
民主主義(理論・思想)を教科書的に論じた本というと、アリストテレスだのマキャベリだのルソーだのロックだのといった古典に多くの紙幅を割くものが多いだけに、現代的な論点に絞っている本書は貴重。
それだけに、やはり広く一般に届かなそうなのは残念。(それとも、入門者でも頑張れば何とかなるだろうか?)
細かいところでは、個人的には、民主主義と政治的自由主義(あるいは立憲主義)との緊張関係に関する記述が少なく、その記述も、基本的人権の尊重を定めている近代憲法(日本国憲法)を所与とした、憲法の枠内での棲み分けを言ってるだけというのは不満。その前提となっている憲法を制定する権力や憲法の正統性はどこから来ているのかという問題は重要。( 改憲論議が出てたり、中高校の教科書的な浅薄な民主主義理解が跋扈してる状況なら特に。)
まあ、なにはともあれ、これだけ濃厚な議論を展開してる新書なんて久しぶりに見た気がする。のは、きっと、最近ブームな軽すぎる新書群に毒されているからな気がする。