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 斎藤純一 『〈思考のフロンティア〉 自由(岩波書店、2005年)
 
 
 「自由」に関わる論点を網羅的かつ非常に分かりやすく整理しながら、著者自身の主張も押し付けがましくならずに述べられている本。この分野のことは断片的にしか知らないだけに、とても勉強になった。

 それで、どのように「自由」に関する議論が整理されているかというと、まず初めに、「自由への脅威」(=「自由の敵」)という観点からホッブズやロックなどの最もポピュラーな論者たちの議論が整理される。具体的には、自由への脅威として、他者、国家、社会、市場、共同体が挙げられている。ちなみに、著者は、最近の社会状況は「他者」を自由への脅威と考えたホッブズの議論がよく当てはまると考えている。

 それから、次に、「干渉の不在」と定義されるアイザイア・バーリンの「消極的自由」の概念を引照基準として、自由について様々な観点から検討を加えている。「自由の質」や「形式的自由と実質的自由」などについてである。

 そうして、それまでの検討を踏まえて自由の再定義が導き出されている。

 その後は、「自由の規律」、「自由と安全」、「自由と公共性」といった現実の社会状況も意識した論点が検討されている。これらを通して主張されるのは、自由は排他的に個人の主権だけに帰属するものではなく人々の〈間〉でこそ初めて成り立つものであること、そして、他者への関心の希薄化の問題である。
 
 
 全体の流れを簡単に見てきたが、著者は、最後の主張――強固で不変な自己を想定した自己決定至上主義とその帰結としての私生活主義への批判――にも表れているように、〈間〉や他者や社会といったものの「自由」にとっての意義にかなりの注意を払っている。

 これは、「立憲主義と民主主義」、「自由と民主主義」との間の緊張関係における「民主主義的側面」の強調だと理解できると思う。本文中には他にも、「共約可能な自由」(=「善」と区別されるところの「正義」)の定義を決める際の討議的方法の擁護や、「Deliberation Day」(市民間の討議のための選挙前の祝日)への肯定的評価といったところに、その民主主義的側面の強調を読み取れる。

 そんなわけで、この本は、「自由」について論じながら(論じるからこそ?)、「デモクラシー」の意義を訴えている本だとも言うことができると思う。
 
 
 この本のように、議論を整理している教科書的な本は、どうしても「そういうものか」と無批判にその内容を受け入れがちになってしまうから、なかなか批判は見つからない。ただ、強いて言えば、「格差社会やセキュリティへの関心といった問題に対する著者の認識がどこまで実証的な証拠に基づくものであるのか?」という点が挙げられる。もちろん、いちいちその証拠に触れていては、この本の目的や意義から逸脱してしまうが。

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