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 伊藤之雄 『元老ーー近代日本の真の指導者たち(中公新書、2016年)

 

 学校で教科書から学んだことの中には、わかったつもりでいるけれど細かく突っ込まれたり深く考え詰めたりするとよくわからなくなるものがしばしばある。

 大日本帝国憲法が発布されて以後、選挙も政党も議会もあるのに「本格的政党内閣」ができるのは大正時代(1918年)の原敬内閣まで待たなければならず、それまで藩閥系の首相ばかりが続いている。また、原内閣後も政党内閣が続くわけではない。では、その頃の選挙・政党・議会の意味とは一体どのようなものだったのか? あるいは、そういったものが力を持っていないのなら、誰が/どの機関が力を持ち、首相は誰がどのように決めていたのか?

 ここのところ、そんな疑問を抱いていた。高校の教科書をより詳しくしたような『詳説 日本史研究』(山川出版社)を読み、(記憶の限りでは)中学校では全く習わない「元老」とやらが天皇の輔弼機関として力を持っていたらしいということはわかった。

 しかし、では、「元老」とは具体的に誰で、選挙も政党もある時代においてまで元老はいかにして力を持ち続けることができたのか?

 ここがわからないことには当初の疑問は解決しない。そんな自分の悩みを解消してくれる本はないものかと本屋に行ったところ、そのものずばりなタイトルの本書を見つけた。目次を見ると、明治維新から敗戦までが章立てられている。昭和になってまで元老は関係していたのかと、「そんなこと(学校では)一言も聞いていないぞ」と驚き半分、疑い半分に本書を購入し、最後まで読み終えた。

 「元老」なる言葉が公的に用いられる前の明治維新後に力を持っていたのは大久保、西郷、木戸、岩倉だった。憲法が制定され天皇が主権者になったが、天皇が政治的な責任を追及されるような事態に発展しないよう、重要事項の実質的な決定機関としてその時々の有力者が元老になって天皇を輔弼していく。後継首相の指名はその主要な役割の一つである。伊藤博文一人がその任を果たしていた時代もあれば、伊藤、山県、黒田、井上などが元老になっていた時期もあれば、山県が一人力を持っていた時期もある。そして、最後は西園寺が暴走しそうな陸軍と対抗しながら孤軍奮闘するが敗れ、元老はその役割を終える。

 読んで驚いたが、元老を軸に日本政治を見ていくと、明治から昭和(終戦まで)にかけての日本の政治史がほぼ網羅されているのだ。元老は近代日本政治を理解するに際して「欠かせない」と言うにとどまらず、近代日本政治とは元老による政治のことだと言ってもよいくらいに思える。中学の歴史で習う、当時の政党や議会は、今の基準でこそ大事なものではあるが、当時のそれらは今のそれらとは果たしている役割が違いすぎて、一体どこまで意義があるのか疑問に思えるくらいだ。(この疑問を解決すべく政党政治の歴史に関する本を読むつもりだ。)

 そして、ほぼ非公式で非民主的な元老が、これほど長くにわたって力を持ちえたのは、本書の終章などでも言及されているとおり、元老たちの個人的な卓越性や能力によるところが大きそうだ。近代的な政治制度を導入したばかりの未熟な日本において、彼らは、保護者的な役割を行き過ぎることなく抑制的に果たしている。このような視点から、本書では元老とされる人たちは、老練で冷静な政治家として描かれている。もちろん、本書で言及されないネガティブな点もたくさんあることだろう。しかし、元老が国民などからの強力な批判にさらされずに生き延びてきたということが、元老の内実(と本書の主張の正しさ)を教えてくれているように思える。

 翻って現代の日本政治を見るに、民主主義が深化し、今や泰然自若と構えている元老のような政治家は皆無と言っていいだろう。それが悪いことだとは決して言わないが、ほんの少しだけ寂しい気持ちになってしまう。

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