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 大竹文雄 『経済学的思考のセンス(中公新書、2005年)
 
 
 「女性が背の高い男性を好む理由」、「イイ男は結婚しているか」、「プロ野球の監督の能力」といった身近な俗っぽい問題から、「年功賃金と成果主義」、「所得格差と再分配」といった時事的な経済の問題までを経済学的に理解することを試みながら、経済学的な思考法(特に、インセンティブと因果関係)を身に付けさせることを目指した本。

 この著者は、『日本の不平等』という「格差問題」を冷静に論じた非常に評価の高い書物の著者でもある。『日本の不平等』を読まなければと思いつつも、手軽な新書を先に手に取ってしまった。

 
 
 さて、この本を読んでまず感じたのは、経済学の裾野の広さである。

 例えば、身長による賃金格差(身長プレミアム)を分析し、その源泉を身長が高いと青年期における運動部への加入率を高め、それが組織を運営する能力の形成に役立つ(p12)という結論を提示する研究がある。

 また、他にも、「美男美女度」が賃金に与える影響を計量経済学的に分析する研究や、オリンピックの国別のメダル獲得数を分析してその予想までもする研究などが、この本では紹介されている。
 
 
 著者もこれらに連なる研究をいくつか行っている。その中の一つに、プロ野球の監督の能力を測定しようと試みたものがある。それは「勝率引き上げ能力=同一戦力で達成できる予測勝率」として表されるものである。これは具体的には、
「チーム勝率=定数項+平均打率+本塁打数+防御率+監督効果」
というモデルによって導出される。これを、2シーズン以上監督を務めた108人に当てはめ、順位付けを行っている。上位20位のランキング内の順位は統計的に有意ではないが、上位には、最近の監督では、原辰徳(5位)、伊原春樹(9位)、梨田昌孝(12位)、森祗晶(16位)といった人の名が見られる。

 しかし、モデルを見ると、選手の個人成績とは別に監督効果が想定されており、おそらくは、監督効果とは「采配」のことを意図しているのであろうが、“個人成績とは別の監督効果=采配”とは一体いかなるものか想像し難い。実際のところを考えると、単純な個人成績の関数からは外れて勝率に寄与する要因とは、効率的な攻撃と守りから生じるものであると考えられるから、これを監督効果と言ってしまうのは無理があると思う。例えば、得点圏打率とかの方が効率的な勝率の上昇には寄与していそうなものである。

 また、細かいことではあるが、個人成績に打率と防御率とともに「本塁打」を入れているのも納得し難い。勝率に寄与する要因としては、本塁打よりも「打点」の方がより重要かつ直接的であるように思える。

 したがって、結局のところ監督の能力の測定の試みは成功していないように思える。ただ、オリジナルの論文(Ohtake、Ohkusa“Testing the Matching Hypothesis: The Case of Proffessional Baseball in Japan with Comparisons to the U.S.”, 1994)にはこれらの点について言及されている可能性はあるが。
 
 
 とはいえ、この本は、このような考えやすい身近な問題に始まって、後半では、年功賃金などの「日本的雇用慣行」と所得格差の問題についての経済学的な簡潔なまとめがなされているのである。興味の持ちやすい問題に始まって、日本的雇用慣行と所得格差についての簡単なまとめと来れば、このまま、この著者による『日本の不平等』へとステップアップするのが自然の流れというものだ。そんなわけで、この本は『日本の不平等』への丁度いい橋渡しになった。近々、『日本の不平等』を読むつもりである。

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