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by ST25
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 ウィリアム・ゴールディング 『蝿の王(平井正穂訳/新潮文庫、1975年)
 
 
 少年たちの乗っていた飛行機が、(中略) 南太平洋の孤島に不時着した。大人のいない世界で、彼らは隊長を選び、平和な秩序だった生活を送るが、しだいに、心に巣食う獣性にめざめ、激しい内部対立から殺伐で陰惨な闘争へと駆りたてられてゆく・・・。少年漂流物語の形式をとりながら、人間のあり方を鋭く追究した問題作。という裏表紙の文章は、この小説の適切な紹介である。

 この小説は1954年に書かれたイギリスの小説家ゴールディングのデビュー作である。その後、1983年にゴールディングはノーベル文学賞を受賞している。

 「自分の頭の中に、世の中の人々、ないしは、その人々が織り成す世の中がどのように映っているかを知りたければこの本を読んでくれ!」と言いたくなるくらいに、この小説(の特に前半)は、弱くて暴力的で醜くくて単純な人間(心理)を上手く描いている。

 それは、文中のささいなところに表されている。それらは本来、ストーリーの流れの中に位置付けられてこそ、その意味が明らかになるものであるから、部分だけを取り出しても分かりにくいのだが、いくつか挙げてみる。

 一つは、島に着いて初めてそこにある山の頂上に登ったときの少年たちの描写。

眼を輝かせ、口を開け、意気揚揚として、彼らはいま自分たちの手中におさめた支配権を味わっていた。みんな心が浮き浮きしていた。 (p45)

 初めて山頂に来た開放感や喜びの表現と共に、「支配権」という暴力的な要素をさり気なく入り込ませている。

 もう一つは、少年たちによる集会での話し合いの場面。

 ラーフ(※主人公)はいらだった。そして、ふっと、ある敗北感に襲われた。はっきりつかめない何ものかに直面していることを、直感した。自分を食い入るように見ている相手の眼には、ユーモアはなかった。
 (中略)
 自分にも思いもよらなかったある感情が、胸中に生じてきて、彼は、問題を大声で繰り返し明瞭に指摘せざるをえない衝動を感じた。 (pp57-58)

 敗北感を強権的な大声での主張に転嫁している。感情に従う人間の、醜い心の中が表されている。
 
 
 もちろん、他の要素もこの小説の人間描写を光らせるのに一役買っている。

 無人島で生活を送るのが子供で、しかも男子だけであるという設定は、この小説の主題(※小説中の言葉で言えば、(人間の中の)「野蛮と文明」になるのだろうが、現代では政治的な意味合いが強くてぴったりではないようにも思える。)をよりはっきりさせるのに役立っている。

 また、蛇のような動きをする獣や、豊かな果実を少年たちが貪り食うことや、罪の意識など、キリスト教的な隠喩も随所に散りばめられてこの小説に深みを与えている。

 他にも、主人公とその仲間を簡単に善や正義と割り切ることはできない点や、「蝿の王」が出てくる神秘的な場面など、考える余地のあるおもしろいところは色々とある。
 
 
 しかしながら、いずれにせよ、自分がこの小説にリアリティを感じて恐怖を覚えるのは、主人公をも含むほぼ全ての少年たちが見せる凶暴性や残虐性が、“狂気”のために姿を見せるのではないことによると思われる。いわば、人間の暴力性は生来のものなのだ。言い換えれば、暴力が(も)“自然”ということになる。

 こんなところに、自分が近代主義を支持し、文明を擁護する理由もある。

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