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 小島寛之 『エコロジストのための経済学(東洋経済新報社、2006年)
 
 
 色々な環境問題を経済学の視点から捉えることで、環境問題の解決の難しさと経済学の基本的な思考法を教えることを目的とした本。

 「メインディッシュ」である2~5章および6章で扱われる環境問題は、地球温暖化、大気汚染、干拓・ダム問題、水俣病などで、使用される経済理論は、「コモンズの悲劇」、戦略的ゲーム理論、ケインズのマクロ経済学、外部不経済、コースの定理など。

 ただ、環境問題の経済学的理解と最新の経済学の基本的理解という二つの任務を負っているこれらの章は、前者の観点からするとそれぞれの問題の一側面を照らしているだけだし、後者の観点からすると紹介が簡単すぎるという、よくありがちな問題を生じさせてしまっているように思う。したがって、環境問題と経済学とが濃密に上手く接合されているようには思えなかった。

 そんなわけで、あまりおもしろくないなぁと思いながら読み進めていたら、7章の途中に、経済学を不勉強な自分には初耳な驚きの問題提起がなされていた。すなわち、ケインズ経済学は「占星術の域を出ていない」というのである。しかも、このような問題意識を持った経済学者は少なからずいるというのである。

 その問題点は複数指摘されているが、扱いの大きい一つの点を紹介しておこう。それは、ミクロ経済学とは違ってケインズ経済学は、経済を決定する仕組みを、「人々がどんな利得を思い描いて行動しているか」に依拠させず、原因不明の単なる「観測されたデータ」に依拠させるだけでは、科学的な結論を導出できないに違いない(p171)ということである。

 確かに、物理学をはじめ、(経済学的方法を応用した)社会学や政治学も、ミクロな基礎の上に「科学的な」議論を構築している(しようとしている)。

 ただ、ケインズ経済学をそもそもほとんど理解していない自分には、これだけではさすがに判断しかねる。が、これだけを読んだ感じではなかなか説得力があるように見える批判ではある。
 
 
 ところで、著者はこの本の最後で、解決が非常に困難な環境問題をコントロールするための一つの「試論」を、まだ構想の段階だと何度も断りつつも提示している。それは貨幣の機能の解釈を通じて出されたモデルなのだが、ゲームの初めの段階で一人だけ「貨幣」(ないしは「エコカード」)を持っているという想定で、しかもその最初の一人が環境保護に肯定的な選好を持っているというのでは、あまりに恣意的な設定であるように思えてしまったのだが、著者は数理経済学者だから、自分の方が理解し損ねたようだ。
 
 
 それと、著者は政府が関与しなければならない経済理論を批判する際に、「役人が自分たちの既得権益を作るようになって腐敗するからダメ」というような論理をしばしば使っているのだが、こと役人の話に限ってだけあまりにも分析がナイーブすぎるように思えた。経済理論はゲーム理論などを使って厳密に作られているだけに違和感を感じた。

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